第40章 世間は狭い
向は、「俺のもん」という一言を「俺の女」と解釈してしまった切島と上鳴に反論し、素知らぬ顔を続ける爆豪の足を再び踏み抜いた。
「いっ…てめェ暴力女!!!」
『大声出さない』
「あれあれェ、なんか野蛮人の声が聞こえると思ったらやっぱりA組連中じゃないかー」
ガッ!と手に持つトレーで切島の後頭部を小突きながら現れたのは、ヒーロー科1-B物間寧人だ。
彼の姿を確認するや否や、鬼のような形相を浮かべていた爆豪の顔が、般若のようなものへと変わる。
意図的にぶつかられたことを感じ取った切島も「あァ!?」と珍しく声を荒げて振り返った。
二人の豹変っぷりに、向と上鳴は顔を見合わせ、事の成り行きを見守ることにした。
「ごめんごめん、ちょっと手が滑っちゃって」
「わざとだろ!」
「俺に話しかけんなや殺すぞ!!」
「おぉA組連中!?切島ァ!!」
「おぉ、鉄哲!!!」
段々と周囲に現れるB組のメンツを見て、上鳴が期待したように「茨ちゃんは!?」と一人のB組生徒に問いかけた。
「塩崎もいるよー、あれ。そっちは個人グループ?」
軽く言葉を返したのは、B組の姉御的存在の拳藤だ。
どうやらB組は集まれるメンバーで体育祭の反省会をしていたらしく、その合間、昼休憩の場所に選んだのがこの店だったらしい。
(俺ら普通に遊んでっけど……)
(もしかしたらヤバくね?意識の差が…!)
なんて考えているのが筒抜けなほど、急にそわそわとしだす切島と上鳴を見て、物間が鼻で嘲笑った。
「余裕があっていいよねぇA組は!体育祭で本戦出場したくらいで、休みの日はデート?見たよネットニュース、体育祭1位と3位が将来のサイドキック候補をお互いに打診してるとか何とか書かれてたけどさ、あれただデートしてただけだよね?ただ宣誓での伏線回収出来たから嬉しくなっちゃって調子に乗って女の子デートに誘っちゃったパターンでしょ?あーあー同じ雄英生として恥ずかしいなぁ、ヒーロー科がみんなそんな青春ごっこ楽しんでると世間に思われたら最悪だよ!」
『キミ誰?底抜けにやかましいね』
視線も合わせずに切り捨てた向に物間が反論しようとした瞬間、拳藤がドッと物間の首の付け根を強く叩いた。
倒れこむ物間を回収し、拳藤はにこっと笑った。
「ごめんなー、こいつ心が汚れてるんだ」