第40章 世間は狭い
「なぁ、聞いたかよ?飯田の兄貴のインゲニウム、ヒーロー殺しにやられたってさ」
上鳴がポテト片手に、三人へスマホの画面を見せてきた。
「えっ、やられたって…」
そのスマホを受け取り、切島が3人で見られるように手の角度を調整しながら、ネットニュースに目を走らせた。
「一命は取り留めたけど、ヒーローは引退らしい。ひでェ話だよな、インゲニウムが何したっつーんだよ」
『…天哉の家ってヒーロー一家なの?』
「そうらしいぜ」
「…ハッ、やっぱ坊ちゃんか」
「いや、マックにそんな金使ってるおまえんちも怪しいぞ。さては爆豪金持ちだな!?」
「だったら何だよ」
「妬む!!」
『そんなダイレクトに』
向が爆豪の特大サイズのポテトをじっと見つめ、ナゲット1つとポテト3本の物々交換を申し出た。
無言で許可したらしい爆豪が無造作にポテトの箱を掴み、バサッと向のナゲットの箱にポテトを分け与える。
「ヒーロー一家といえば轟もだよな。明日の職業体験の事務所指名、必ず身内の事務所から指名は1つ来るって分かってる連中は羨ましいよ。本戦出てなくたって、そういう指名コネで来るやつはいるらしいし」
「まぁ大丈夫じゃね?俺ら全員本戦出てるし。1つか2つは指名来るって!」
『みんなはどういうとこからの指名を狙ってるの?』
勝手に切島のナゲットを1つ、自身のハンバーガーの隣へと回収した上鳴の手元を眺めながら、向は問いかけた。
向の隣に座る切島は彼女を真っ直ぐに見つめるが故に、上鳴の悪行に気づくことなく、力強く答えた。
「やっぱ、地元への義理とか人情を大事にしてる事務所がいいよな!」
「俺は「わぁ〜若い子来てる〜」って可愛がってもらえるとこがいい」
「1番有名な事務所」
『わぁ、個性豊か』
「…おまえは?」
爆豪がまた、ぶっきらぼうに問いかけてくる。
興味を持たれたことに対し、向はまた目を丸くして、答えた。
『1番役に立ちそうな事務所』
「上鳴ナゲット買ってなくね?」と異変に気付いた切島に腕を押さえ込まれた上鳴が、手から口へとナゲットを運搬するのを諦めた。
かと思いきや、彼は顔面を自分の手に持ったナゲットに近づけ、ムシャァ!と食らいついた。