第40章 世間は狭い
「お次お待ちのお客様、こちらへどうぞ!」
(…ついに、この時が)
少し緊張した面持ちで列に並んでいた向は、自分を呼ぶ店員の声を聞き、足早にカウンター前へと進み出た。
彼女の隣のレジでまた長い長い呪文を口にしていた爆豪が、一瞬視線を横にやり、表情を変えることなく注文を続ける。
「こちらでお召し上がりでしょうか?」
『は、はい』
「ご注文をお伺いします!」
『…えっと、ベーコンレタスバーガーでお願いします』
「セットと単品ございます」
『セ、セットで』
「サイドとドリンクをこちらからお選びください」
(…あ。ナゲット選べるのか)
ふと。
ポテト、コーラ、というテンプレを考えていた向の意識がナゲットに逸れ、『ナゲット、コーラで』とつい口にしてしまった。
「ナゲットはバーベキューソースとマスタードソースがございます」
『…………えっ』
ざわざわと騒がしい店内の客たちの話し声が、一層大きく向の耳に入ってくる。
『あ……えっと、どっちが、いいですか』
「どちらも人気ですよ!」
『うっ』
オロオロとしているのを見かねてか、また山積みの商品を片手に持った爆豪が向の隣へと近づいてきた。
「こっち」
『えっ。じゃあ、それで』
「バーベキューソースですねーご注文は以上でしょうか?」
『あ、はい』
「お会計はこちらになります!」
あ、ありがとう、と向が申し訳なさそうに言うと、爆豪は何も言わずに、列から離れ、混雑する店内で丁度空いた4人用の席へと向かっていった。
『………はぁ…』
軽くため息をつきながら、自分の優柔不断さに嫌悪感を抱く。
出てきた商品のトレーを両手で持ち、座席を確保してくれていた爆豪の向かい側に座った。
「聞けっつったろ」
『聞かなくても決められるし』
「あ?」
『ごめんなさいありがとうございました自信過剰野郎で申し訳ありません』
「あっ、爆豪ナイス!座れねぇかと思った」
「うっはー山盛りじゃん!育ち盛りかよ!」
と言いつつ現れた切島と上鳴の持つトレーにも、ハンバーガーの小山が出来ている。
2つ3つ平気で頼んでしまうあたり、さすが男子高校生と言うべきかと、向は今朝方「二日酔いで何も口に入りません」と直談判してきた三十路の顔を思い浮かべた。