第39章 応答
「……おまえは?」
『えっ、なにが?』
「……俺に小綺麗な格好をして欲しいとか、そんなこと考えてたりしないのか」
『しない。勝手に小綺麗になられると困るんで』
「どうして」
『下手に目立ってほしくないから』
((………なんか……))
つくづく、似ている。
二人とも真顔のままで黙々と食事を終わらせ、相澤は仕事に向かう準備を、彼女は食器を洗い始めた。
「じゃあ、行ってくる」
といういつもの言葉が聞こえたので、向は作業の手を止め、洗剤のついた手を洗い流した。
振り返ろうとした直前。
背後から、相澤に抱きしめられた。
『……っえ……』
「今日は、早く帰る」
だから、二人で過ごそう。
耳元で囁かれた艶かしい声に、向は一気に顔を赤くした。
『ち、か…近い』
「……あんまり遅くなるなよ。あと次ネットニュースに挙がったら、おまえしばらく外出禁止な」
『えっ!?さらっと謹慎!?』
「服を選ばせるのも無し。自分で選べ」
『……選べないんだけど』
「なら俺と次に出かける時まで待て」
一緒に選んでやるから。
と相澤はそう言って、ようやく向から離れた。
向は、見送らなくていいよ、と手をひらひら振りながら出かけていこうとする彼を玄関まで追いかけ、荒々しく高鳴っている自分の胸に手を置いた。
『え…出かけてくれるの?』
「……別に、もう隠す必要ないからな。親戚同士、歩いてたって何の問題もない」
そして、靴を履き、向を振り返りながら相澤は付け足した。
「…ただの、遠縁の親戚。それだけでいいんだろう、おまえは」
『…………うん』
「わかったよ。ただ」
相澤は向の頭を撫でて、その後ろ髪を撫で、彼女の首の後ろに手を置いた。
少しだけ彼の指先に力が込められて。
相澤は向の頭を引き寄せ、額にキスをした。
そして彼女を抱きしめ、告げた。
「…ただ…俺は、世間に、周りの人間に許されなくてもいいって考えてる。おまえは俺が血迷ってるだけだと思ってるかもしれないが、それは逆だ。おまえが干支一回り以上上回る俺をそんな目で見てるなんて、錯覚以外のなんでもない」