第5章 先生としてどうなんですかそれは
集団の中に戻ると、なんだかやけにクラスメートたちの視線を感じた。
どうかしたか、と一番近くにいた蛙吹に問いかけると、彼女は口元に指を当てながら、轟を見上げて、問いかけてきた。
「ケロ、二人がとっても仲良しに見えたから、みんな気になってるみたいだわ」
「…仲良し?ただ介抱してただけだろ」
「そうだったの?深晴ちゃん、大丈夫?」
『あぁうん全然大丈夫…あれ?』
向は轟の側から離れて、右手を押さえている緑谷のもとへと近づいていった。
(…仲良し)
轟は蛙吹の例えを頭の中で反芻しながら、緑谷と親しげに話す向を眺めた。
二人きりだったそこに飯田と麗日が集まっていくのを見て、次の種目の準備に移ろうと足を踏み出すと、背後から小さな爆発音が聞こえてきた。
「…何だ」
「おいコラてめぇ、さっきのあの目はなんだ?」
先ほどまでとは比べ物にならないほど、爆豪がイラつき、苛立ちを持て余しているようだ。
大方、やたらと特別に蔑んでいる緑谷の結果が思ったより良くて、思い通りにいかないことにイラついているんだろうと推察した。
「…どのことを言ってんのかわかんねぇ。俺はおまえを見る目、変えたことなんて一度もねぇぞ」
「あぁ?ならずっと…そんなナメた目で見てやがったってことかよ!?」
「ナメてるとどういう目つきになんのか知らねぇが」
すげぇ騒がしいヤツだなと思ってる。
一触即発になりそうなその空気を作り出した轟は、言うだけ言って、爆豪を相手にすることなく別の生徒に声をかけ、長座体前屈の測定に入ってしまう。
その扱いにわなわなと怒りをさらに膨らませながら、爆豪は視界に入ったままの緑谷と、その手に触れている向を睨みつけた。
『わぁ、なにこれ。粉砕骨折?』
「…たぶん…」
『お互い頑張りすぎた感あるね』
「向さんは、あの結果ならきっと上位だから大丈夫…でも僕は…」
『……ま、最大限やったならあとはあの先生の見る目に任せよう』
きっと大丈夫、と朗らかに笑う向はぐわんぐわんと身体を揺らしたまま、その場に必死に踏みとどまっている。
大丈夫!?と心配してくる緑谷に、いやキミに言われても、なんて返事を返す向の目元は、どこか優しげで、緑谷には彼女がとても嬉しそうに見えた。