第4章 怪しげな少年BとT
『いいなぁ、焦凍の個性』
「…まだなんも知らねぇだろ。いい加減なこと言うな」
『それもそうだねぇ』
若干の怒気を孕んだ轟の言葉に、向は気づいたのか、気づかなかったのか。
さらっと八つ当たりを受け流してしまった向に視線を戻す。
血の気のない顔で荒い息を吐くけが人に、冷たい言葉を返したことを、轟は申し訳ない気持ちになった。
「…悪ィ」
『なにが?』
「…何でもねぇよ。おまえ、そんなになってまでテスト受けるって相当真面目か頑固なんだな」
『いや、誰だって除籍はいやだよね』
「除籍なんて話、信じてるのか?」
『うん、彼は身内にも容赦ないからね』
身内?と聞き返した轟に、向は急に無言を貫いた。
学校関係者って意味か、と都合良く解釈をしてくれたらしい轟は、それから少しの間無言だった。
「……向」
『なに?』
「なんで怪我したんだ?個性のせいなのか」
『私にあっち向いてホイで勝てたら教えようかな』
「…だから、それ、なんなんだよ」
『何回勝負がいい?』
「勝負事なのか?」
『…………………ん?』
あっち向いてホイってなんだ。
そう問いかけてくる轟をじっと見つめ、向はただ、『そっか』と呟いた。
『あっち向いてホイは…一対一で出来る遊びのゲームの名前だよ』
「…へぇ。ゲームに勝てる個性…ってことか?」
『そのゲームならね。やってみせてあげたいけど、何しろ今出来る限り顔動かしたくないから、治ったら一緒にやろうね』
「あぁ」
『やった、約束だから』
「……あぁ」
ジャンケンして勝った方が、とあっち向いてホイのルールを説明してくれる向の額に右手を置いたまま、轟は、待機場所に立つ生徒たちが腕を振って自分たちを呼んでいることに気づいた。
「向」
『ん?』
テストの時間だ、と轟は向の額から手を離し、腰を上げて、段差の下へ降りると、向の方へ片手を差し出した。
「…がんばれよ」
俺と遊ぶって約束したんだからな、と轟は少しだけ口角を上げて、段差を降りる向をエスコートした。
その紳士的な動作と、微かに動いた彼の麗しい表情を見て、向は呟いた。
王子かよ、と。