第38章 救いようがない
「大切な人」に愛されたいと願ったのは、いつのことだっただろう。
いつからか、その言葉は彼を指すようになり、自分で口にするたび、後悔して、その変化に塞ぎ込み、人でなしの自分を呪うようになった。
『…消太にぃ』
いつからだっただろう。
誰かの名前を呼ぶ度に。
特別な感情を、乗せるようになったのは。
『………。』
触れたいと、思った日を数えたらきりがない。
それらしい身嗜みをすれば、きっと彼は引く手数多だろう。
だから、このままでいてほしい。
容姿で彼を目に止める女性など、いつまでも現れなければいい。
一日中街を歩いて、いろんなものを目に映して、口にした。
その度、思い起こすのは彼のこと。
彼と一緒に、街中を手を繋いで歩けたら。
彼と一緒に、このアイスを食べたなら。
きっと幸福な一日に違いない。
けれど、それは許されない。
クソみたいなこの世界
あぁ、私もいつか、そう思うようになるなんて言われていたけど。
こんなことで、そんな風に思うようになるなんて、なんて馬鹿馬鹿しい。
もっと他に、泣き叫びたくなるような出来事も、命を絶ってしまいたくなるほど苦しい出来事もあった。
「ここ」に来て、あの学校へ通い始めて。
自分を見失いかけた。
どうしてだろう。
(…あぁ、そうか)
ただ、ただ
この日々が愛しい
友達に囲まれて、恋をして、夢を見て
もっと早く、生まれた時間と、場所が違っていれば。
こんな風に出会うこともなかっただろう。
こんな苦しさに身を焦がし続けることも。
こんな幸せに、こんな束の間の夢に没頭することも。
『……大好きだよ』