第37章 束の間の夢
穏やかな空気を纏ったまま、気にならないわけではないのか、どこかへ歩みを進めながらも、轟が問いかけてきた。
「…爆豪と二人ってどんな感じだ。すげぇ目立ちそうだな」
『案外静かだったよ?口は相変わらずだったけど』
「遊んだりしたのか」
『ううん、会ったのは数時間前だから…ご飯食べて、服選んでもらって、アイス食べたくらい』
「…なら、あんま腹は空いてないか。向、おまえはいつも何して過ごしてる?」
『んーと、雑誌読んだり。最近は小説読んでる。言葉知らなさすぎることが判明したから』
「言葉を知らないのはどうしてなんだ?」
『んー……なんでかな。あまり人と話さずにきたから?』
「それはどうして?」
『ははは、口下手野郎だからさ』
「向、おまえのことが知りたい。だから、隠さずに答えてほしい。約束したろ、俺がおまえに勝ったら、おまえのことを教えてもらうって」
俺だけに、教えてほしい。
轟は向を見つめ、真剣な声色でそう伝えた。
向は暮れてきた西日に背後を照らされながら、笑みを消して立ち止まった。
『何が知りたい?』
「……おまえが」
『答えるのは1つだけだよ』
間違わないでね、と向は少しからかうような笑みを浮かべ、また歩き始めた。
「…1つだけなんて聞いてない」
『また私に勝ったら1つ教えてあげるよ』
「…何の勝負で?」
『なんでもいいけど。今日答えるのは1つまで。自分のこと話すのあまり好きじゃないし、私のことを聞かれるって分かってたら私は今ここに来てないから』
「……!」
『私がここにいるのは、焦凍の話を聞くためだからさ。そういう話だったよね?』
「おまえが負けたら、俺におまえのことを話すって話でもあったはずだろ」
『どうして、個性を全力で使わないのかを、話すってことだったと思うけど。私のことは話さないよ』
「ならどうして話さないのかを教えてほしい。向、俺はおまえに…」
口ごもった轟を、向がじっと見つめ。
進むべき道を指し示しながら、彼女は笑いかけた。
『帰ろっか』
「………。」
『帰りながら、話そう』