第37章 束の間の夢
待ち合わせ場所で彼女を見つけた。
向はぼんやり、いつものように空を眺めて、物思いにふけっているようだった。
以前見かけた私服姿とは違う雰囲気の洋服に身を包んだ物憂げな彼女の横顔は、とても儚げに見える。
通り過ぎ行く人が男女問わず振り返るのも、彼女が醸し出す浮世離れした雰囲気故だろう。
ほんの数秒。
轟は、彼女の姿を見つけてから、見惚れて声をかけることができずにいた。
「…向」
『…やぁ、昨日ぶり』
声をかければ、いつでも柔らかく笑いかけてくれる彼女。
普段通りの向の声と笑顔に安心して、轟は少しホッとした。
「悪ぃ、待ったか」
『とんでもない。お見舞いはもう良いの?』
「…あぁ」
どうだった?と、微笑みを浮かべたまま結果を聞いてくる向に、轟はぽつりと言葉を返した。
「…杞憂だった。拍子抜けするぐらい、お母さんは赦してくれた」
『それは良かった』
「…ありがとな、向」
『私は何もしてないよ』
向はもたれかかっていた壁から離れ、足下においていた、服飾店のロゴが書かれた紙袋を自分の肩にかけた。
「持つ」
『…ん?これ?あぁ、軽いから大丈夫』
「そういう問題じゃねぇよ」
『どういう問題?』
轟は向の持つ紙袋を掴み、彼女の肩から抜き取ると、自分の肩にかけて歩き始めた。
「…何か買って食べるか?」
『お腹すいた?』
「…少し。それより、向。俺と自販機の前で会った時、おまえそんな系統の服着てたか?」
『うっ、みんな目ざとい……あー……』
向は少しだけ思考を巡らせたあと、轟に向き直り、おずおずと答えた。
『…実は、勝己に会って。さっき。私は午前中から服買いに出てきてたんだけど、決まらなさすぎて決めてもらった』
「…へぇ」
はたして、轟はどんな反応をするのだろう。
もし相澤の言う通りヤンデレの節があるとすれば、何らかの批判的な行動をしてきそうなものだが。
そんなことを考えながら轟に話してみると、彼は案外あっさり頷きながら、こう言った。
「似合ってる」
『……お、おぉ……ありがとう』