第36章 1位の彼と私
『私これからまだ用事あるんだけど、何か甘いものでもいらない?付き合ってもらったし、お礼がしたい』
お礼として奢るから、何かを望め。
そう言われているんだろうと察し、爆豪が少しだけ考えた後、向の手首を掴み、くるりと逆方向に歩き出した。
『…そっちにあるの?お店』
無言のままに手首を引っ張り続ける爆豪に、向が申し訳なさそうな声を発する。
『あの、手』
「あ?」
『離してほしい。人が大勢いるし、目立ってるし』
「…………。」
繋ぐにしては、おかしな繋ぎ方。
まるで一方が一方を捕まえて、連れ回しているように周囲に映ってしまう。
「………。」
けれど爆豪からしてみれば、普段の向と自分の関係は、先ほどとは打って変わって、現在周囲が認識しているそれと大差ない。
爆豪は向が気に入ったから側に置き、自分の思うがままに従わせたいからいつも連れ回している。
そう感じているからこそ、今日はとても気分が良いのだろうか。
向の決定権が全て、爆豪の手元にある充足感。
彼女への支配欲が満たされていく満足感。
とても、心地いい。
いつも飄々として、自分に躊躇なく歯向かってくる向とは、違う一面を今日は目の当たりにしている。
それも新鮮で飽きない。
暇つぶしになる程度には、彼女で遊んで正解だと思った。
「………。」
けれど。
そんな一方的な考えでは、彼女を全て手に入れることは出来ないのだろうということも、理解している。
『…!』
爆豪が大きな手をずらし。
向の柔らかい肌を指先で擦って、手を握った。
「行くぞ」
そう、はっきりと。
命令口調で指示を出した彼は、向の手を引いて、うまく人を避けながら目的地への歩みを進める。
カップルだったんだ、なんて周囲の視線と、黄色い声を聞き流しながら、向は前を歩く爆豪の背中を見上げた。
ーーーカップル
そんな言葉を頭の中で思い浮かべ。
果たして、私と「彼」がこうやって連れ立って歩いていたところで、そんな風に認識してくれる人はどれほどいるのかと、向は少しだけ悲しくなり、自嘲気味な笑みを浮かべた。