第36章 1位の彼と私
「………に」
似合ってる。
そう言おうと、口を開いた爆豪を見て、向が楽しげに自身の声を被せた。
「に『あり』…………。」
否定しない爆豪に、向はパァッと笑い、またすぐに試着室のカーテンの中へと隠れてしまった。
自分の素朴すぎる服に一旦身を移した向は会計を済ませ、また試着室を借りて、買ったばかりの商品に着替える。
「彼氏さん、ワンピース好きなんですね」
「………………」
「彼女」と言われるとブチ切れるものの、「彼氏」と言われたら黙認するという、かなり気難しい客を相手に、接客命の女店員は果敢に攻めたコメントをした。
ついでに、「あんな大らかな女性、絶対逃したらダメですよ」なんて釘を刺され、イラッとした爆豪が言い返そうとした直後、試着室から向が現れた。
『お待たせ』
すぐ来たる夏に向けた、白地に淡い水色の柄の入ったワンピースの上に、ネイビーのジャケットを羽織った向。
それらしい格好をすれば、見事に「映える」彼女の姿に、爆豪は一瞬息を飲んだ。
購入したもう一着の商品を預かっていた爆豪が、視線を逸らしながら向の前に紙袋を差し出した。
『付き合ってくれてありがとう』
店員がまだすぐそばにいるのに、躊躇いなく感謝の言葉を口にする向。
「…うるせぇよ」
爆豪は、膝が隠れるか隠れないかで照れているくらいなら、もっと別のことに羞恥を覚えるべきだと考えた。
それと同時に。
こいつを着せ替えて遊ぶのも終わりか、と。
ぼんやりとしたつまらなさを感じた。
そして、なんだか、自分の選んでやった服で、これから彼女が別の奴に会いにいくのかと考えてしまうと、少しだけ。
ほんの少しだけ、また憤るような気持ちを覚えた。
「えっ、あいつら付き合ってんの!?ほら雄英のさ!」
「あれ、1位と3位の子!」
「可愛いー、2位の子じゃなかったんだ?」
「お似合いじゃん」
2人で、並んで歩く間。
きっと、向にも聞こえているのだろう、自分たちのことを指す周囲の言葉が、やけに耳に響く。
学校ではあれだけ一緒にいるのに、そんな言葉をぶつけられたことはない。
なんでだ、と爆豪が思い出してイライラし始めた時、向が『ねぇねぇ』と爆豪を呼んだ。