第36章 1位の彼と私
あまりに名残惜しそうに見えたのか、向を見てイライラとし始めた爆豪が、彼女のトレーの上にナゲットのたくさん入った箱を押しやった。
『……食べていいの?』
「うるせぇ、黙って食えや」
いつもより、声のボリュームが格段に落ち着いている爆豪に、向が目をぱちくりとさせた。
言われるままに黙ってナゲットを食べた向は、感想が目に見えてわかるほどキラキラと顔を輝かせた。
『…………………』
「…………………」
『…………………』
「…………………」
『あ、そういえばさ』
「おいコラ食ったんだから何か言え!!」
『え?…あっ、おいしい。それでね』
「感想聞いてんじゃねぇわ!!」
『黙って食えって言うから』
一向に会話のテンポが噛み合わず、何度か苦戦しながらも、それぞれがどうしてここにいるのかを伝え合う。
爆豪は新しいランニングウェアを、向は人と会う前の空いた時間で、野暮用を済ませる為に街へ出てきたのだと話した。
「…おまえ、んな格好でウロついてんのか」
『…格好?…うん。何か?』
ずっと楽しげにハンバーガーを食べ続ける向を見て、爆豪が口ごもる。
さすがに、2人きりの時間を無駄にしてまで、相手を貶そうという気にはなれない。
「……………。」
一度はそう、思いはしたが。
「黙ってられねぇほどダセェな。おまえは何だ、どこの田舎から出てきた?」
『おい少し言っていいことと言っちゃいけないことの区別をつけろ』
「野暮用ってのはアレか、着る服が全部虫に食われて探しにきたってことか」
『おい』
向は少しムッとしたあと、キョロキョロと周りの女性を観察し、再び爆豪を見つめた。
『ちなみに勝己はどういう服が好み?』
「…………あ?」
『男子の意見も取り入れようと思って。女子がどんな格好してたらそれなりだと思う?』
「………………」
(……これは、アレか。好きなタイプは?とかいいつつ完全に……)
その気があるヤツか。
と爆豪が目を丸くして、にやける口元を大きな手で隠しつつ、咳払いをした。
「…………あー………何でもいい」
『疎開先の子ども呼ばわりした奴はどこのどいつだっけ』
「今の格好はナシだろ。おまえ明日それであいつらの前に現れてみ、公開処刑場と化すわ」