第36章 1位の彼と私
「あ?」
「あっ、いえ、どうぞごゆっくりご覧になってください!!」
急に店員を睨みつけた爆豪の袖を引っ張り、向が心底困った顔で頼みごとをした。
『決めていただけますか』
「……は?ガキか、甘ったれんな」
そう言いつつ、悪い気はしないのか、向が見ていない一瞬で店員に恐怖を植え付けた爆豪は、メニューへと視線を移し、指差した。
『……ベーコン、レタスバーガー』
「セ、セットでよろしいですか?」
「セット」
「…ドリンクは「コーラ、サイドはポテト」かしこまりましたー!こちらでお待ちくださいませ!!」
『ませ?』
パッパと進んでいく取引に、向は無防備に開けていた口を閉じ、店員の言われるままに会計を済ませ、列からはずれて向を待っていた爆豪と合流した。
向と段違いの量の商品をトレーに乗せ、それを片手で持った爆豪が、なにも言わずに先頭を歩く。
「決めて欲しいならとっとと言え」
空いている席を見つけ、テーブルにトレーを置いた爆豪が、向を睨みつけながらそう言った。
頼んだ瞬間、カウンターの前でブチ切れられでもしたらなんてことを考えていた向は、少しホッとしながら座席についた。
(決めようとは試みたんだけど…)
なんだかもう注文の段階で疲れ切ってしまった向は、自分の座席と、周りの座席との距離感の近さにうろたえる。
辺りをキョロキョロとしたあと、目の前でハンバーガーに食らいつく、よく知った顔を見て。
少しだけ、また落ち着いた。
『あ、美味しい』
「ちょっと寄越せ」
『…え?それ全部食べるんじゃないの?』
「食った事ねぇんだよ」
『…ベーコンレタスバーガー?』
どうやら、試食の為に向にこのハンバーガーを選ばせたらしい爆豪が「寄越せ」と横暴なことを言ってくる。
向は少しだけ彼の方へハンバーガーを傾け、バクリと豪快に食らいついた爆豪を眺めた。
『……それちょっと食べたい』
「やるわけねぇだろ」
無残に願望を切り捨てられ、向がもさもさと大人しく自分のハンバーガーを口にする。