第36章 1位の彼と私
爆豪は、特に理由もなく人で溢れる街中でウィンドウショッピングするタイプではない。
あれが欲しいから買いに行く。
これが必要だから探しに行く。
嫌いな人混みの中に彼がわざわざ身を置くには、常に理由が必要であり、それは必ず爆豪自身に関わるものでなければならない。
今日、街へ出てきたのは、その目的を果たすためであり、向と出会うつい数分前に、本日の外出目的が彼の手で果たされたからには、もう長居する必要などどこにもない。
どこにもない、はずだったのだが。
「……おい」
『…ん?なに』
「昼」
という単語だけ言葉にして、その先を口にするのを躊躇っている爆豪を見て、向は何かを考え、言葉を返した。
『昼時?』
「……」
『昼休み』
「…………」
『昼………昼ご飯』
「食ったか」
『おぉ当たった。食べてないよ。勝己は?』
「行くぞ」
『どこへ?』
決まってんだろ。
振り返りながら、爆豪がそう言った。
「ビッグマックセット、サイドはコーラとポテト、ナゲット15ピースとダブルチーズバーガー単品二つ」
つい先ほど。
「昼メシ」という4文字の言葉を発する事さえ躊躇っていた彼と同一人物かと疑ってしまうほど、爆豪はつらつらと呪文のような言葉を発した。
「バーベキューソース3つ付けろ。あとホットアップルパイ」
『……何語?』
「お待ちのお客様、よろしければこちらへどうぞー!」
『えっ!?』
隣のレジが空き、暇になったらしい店員がとびっきりのスマイルを向けてくる。
向は少し緊張しながら、おずおずと、爆豪の隣から二歩横へと移動した。
「いらっしゃいませ!お召し上がりですか?」
『えっ。……た、ぶん食べる、かと』
「お召し上がりですね!ご注文お伺いします!」
『……………………。』
しまった、という顔をしている向を横目で眺めながら、爆豪がファーストフードの代金とは考えられない会計を済ませ、向の隣に近寄ってきた。
「とっとと選べノロマ」
『えっ、あの、どれが美味しいの?』
「どれもそんな変わんねーよ」
『変わらないの?こんなにいくつもあるのに』
あわあわとしている向と、混んできた列を見て店員が少し笑顔に陰りを見せた。