第35章 さぁ原点へ
『クラスのみんなは?USJがあって、まだ日常に戻りきれてない子もいるよ。担任投げ出すわけないよね』
「……まだ先の話だ。俺みたいな平凡なヒーローにそこまでマスメディアが食いついてくるのかも不明確だしな」
冷静に見えて。
目の前の大人は冷静じゃない。
向はそのことに気づき、少し浮かれていた自分の気持ちを、黙ってかき消すことにした。
『…ねぇ、やっぱり早めに部屋探して、出て行くよ』
「マスコミには言わせておけばいい」
『言ってることがさっきと矛盾してるし…らしくないよ』
「らしくないのなんて、おまえを引き取った日からそうだ。俺はもうずっと俺らしくいれてない。おまえがここへ来てからずっと。俺はおまえと「ここ」にいる時…教師でもヒーローでも分別ある大人でもない」
『焦凍のこと言えな……』
ハッとして。
向が口を噤んだ。
相澤はその言葉を聞き、目をぱちくりとさせた。
「……温めてくれただけ、とか言ってなかったか?」
『…………。』
「…どっちにしろ、連休が明けたら職業体験へと動き出す。俺もおまえと離れて、少し考えるが……もう校長の許可は下りてる。おまえさえ……おまえが最悪の事態になった後のことを覚悟出来るなら、このままの生活でいい」
『…最悪の事態って?』
「雄英が世間の信頼を損ねる。俺は一般人の尾行程度かわせるが、おまえは家の近くになったら個性で光を反射して自分の身を隠せ。念のためだ」
その言葉を聞き、向が何かを言おうとして、少しだけ考えた後。
また口を閉じた。
『………、また、会議開こう』
「…そうだな。じゃあ次の議題だ」
『ん?』
「ヤンデレとはどういう人種かについて」
『却下!』
「おい、目を背けるな」
『絶対にそんなわけない』
「あれは絶対にそうだろ。明日遊ぶって、そういうのじゃないなら、どういう経緯だ」
『…消太にぃには内緒』
「あ?」
『目を見開くのはやめていただきたい!』
「内緒だと…?」
この浮気者!
と腕を組んで踏ん反り返りながら言ってくるいい歳した大人に対し、向は両耳を塞ぎ、『あーあー!』と自作の騒音で対抗するという子供じみた対応を取った。
『浮気も何も、「違う」でしょう!私たちは!』
「………何が」
『ちが、え?違わないの?』
「………。」