第35章 さぁ原点へ
「処遇も何も、取るべき責任もない。けど、今後学校側の見解としては、「おまえの個性が危険過ぎるため」という理由でおまえを俺の側に置いておくこととする」
『……危険過ぎる?』
「理由のこじつけだ。…筋書きは、こうだ。親族のいざこざで遠縁の俺がおまえを引き取り、新たな居住場所を与えてやる前に雄英への入学、生活がスタート。そこでおまえは…USJでの事件を経験、そして数人の遭遇した敵を全身複雑骨折という「やり過ぎた」行動をとったのを機に、雄英は生徒の精神面を「観察」する必要があると判断。よって、おまえと俺が別に暮らし始める算段はおじゃんとなり、現在に至る…」
マスコミの対応にもよるが。
なんて相澤はうんざりとした声でそう言って、片手に持っていたグラスに口をつけた。
「どれだけ親類縁者とはいえ、男女の教師と生徒が同じ場所で生活してたら、世間は有る事無い事書きたがる。今は雄英の批判を行うマスメディアもだいぶ減ったが、ダメな大人もごまんといる。つまり、おまえが俺とこれ以上一緒に生活を共にするなら、それ相応の理由がいる」
『…そうかぁ。でも、そこまで大人に動いてもらわなきゃいけないなら、出て行くよ』
「出て行かなくていい」
『…なんで?合理的じゃないでしょ、どう考えても』
「ダメだ」
『大丈夫だよ』
「俺が大丈夫じゃない」
そう言って、相澤は深くため息をつき、向を見つめた。
向はその言葉の意味にまた眉をひそめながら思考を走らせ、首を傾げた。
『心配?』
「…あぁ」
『私はどちらかというと、消太にぃが一人で人らしい生活ができるのか心配』
「心配はいらねぇよ。できないに決まってる」
『いや、そこはがんばろう』
「だからいてくれないと困る。また、部屋中の家具を売り飛ばしたくなるからな。…けど、マスコミが騒ぎ始めて雄英が危機に陥ったら、その筋書きで学校を守らなきゃいけない。そのストーリーが世間に公表されたら、おまえは世間に危険分子を孕んだヒーロー志望ってことになる。世間から見た爆豪。そんな感じだ。そうなったら俺は辞職するが…おまえの道を狭めるのは、俺の願望で決めていい問題じゃない」
『辞職、するの?しないよね?だってその筋書きでいったら学校も消太にぃも守れるはずでしょ?』
「迷惑かけといて、居続けるほどのメンタルは持ち合わせちゃいない」