第4章 怪しげな少年BとT
(……アホらし)
爆豪の隣で、飯田と麗日が、緑谷のテスト結果が最下位になってしまうのではないか、と心配している声が聞こえた。
「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!?」
その言葉に噛みつくと、飯田は「無個性!?彼が入学時に何を成したか知らんのか!?」と言い返してきた。
少しだけ上機嫌だった爆豪の機嫌は急下降し、向とは反対側の隣に立つ飯田との、仁義なき口論が始まった。
「…………………………あ?」
ポケットに手を入れた傲慢な態度のまま、飯田と言い合いを続けていた爆豪。
その背に、突然重みを感じる。
少し首を動かして振り向くと、身体が傾きすぎた結果、背中にくっついてきていた向の頭が見えた。
「触んじゃねぇクソモブ女、殺すぞ」
突き放す言葉を選んで、ふと、気づいた。
身体を元の位置に戻そうと、爆豪の背に触れている彼女の両手がとても熱い。
怪我による発熱、という推測が爆豪の頭の中に浮かんだ。
「……テスト受けらんねぇならとっとと失せろや」
「向くん、大丈夫か!?」
『………受けるし』
心配する言葉をかけてやる飯田と、そんな気の利いたセリフは一切、口から語られることのない爆豪。
あまりに荒々しい爆豪を朝から見続けていた飯田は「向くん、今すぐにその危険人物から離れるんだ!」と忠告し、「はっきり言いすぎだよ!」と麗日に口を押さえられる。
けれど、離れろ、失せろ、クソカス死ねと言葉を選ばずに罵倒し続ける爆豪は無理やり向を突き飛ばす気はないようだった。
背中を貸してやったまま、怒鳴りつけるようなこともしない。
その不思議な関係性に、飯田と麗日は目を合わせて、なんだか距離の近い同級生の姿にドキドキとしてしまいながら、視線を緑谷に戻した。
「…ん?指導を受けていたようだが…」
「除籍宣告だろ」
「がんばれ!」
ほとんどの生徒が、パッとしない緑谷の1回目の記録を見て、(あぁ、最下位はあいつか)と同情し、ホッとしていた。
しかし、緑谷に一目置いているらしい飯田と麗日は、彼が最下位というのは納得がいかないようで、ハラハラとしながら試験結果を見守っている。
ふいに、爆豪の背にかかっていた負荷が無くなった。
特に気にかけることもなく、緑谷から視線を外さずにいる爆豪の背後から、声がした。