第4章 怪しげな少年BとT
(…浮遊の個性か?いや、ならあの丸顔よりもスピードに応用が利きすぎる。スピードに変化をつけられる浮遊の個性?)
自分のテストもそつなくこなしながら、爆豪は悶々と向の個性について考え続ける。
第4種目の反復横跳びは流石に身の危険を感じたらしく、向は、血の気のない頭をあまり揺らさないように、ノロノロと測定を受けた。
(…チッ、わかりづれーな)
「なにさっきから向ばっか見てんだ?…あっ、もしかして爆豪お前」
向が気になってるんじゃ!?と見事に短絡的な推理を披露した上鳴が、ドヤ顔で両手を使って指を指してくる。
死ねカス、と暴言を吐いて一切取り合わない爆豪に、上鳴は寂しげな視線を向けたが、それすらも無視されてしまった。
第5種目の砲丸投げ。
向は、いよいよもって力尽きてきたようだ。
しかし、フォームはガタガタな上、振りかぶる勢いを一切乗せることの出来なかったはずの彼女の砲丸は、不思議と、彼女の指先から離れ、長い距離を一直線上に飛び続ける。
麗日とは違う砲丸の動きで記録を叩き出した向に、わずかな違和感を感じて考え込んでいると、爆豪の順番が回ってきた。
「…っ…死ねぇえ!!」
砲丸に本日のイライラを全てぶつけ、新記録に挑む。
するとデモンストレーションでやった時と比べて、かなりの距離が更新された。
「……っシ!」
「次、緑谷ー」
待機の列に戻る途中、立っているだけでも頭が前後左右へフラフラと傾いている向と目が合った。
若干赤みを帯びたままの彼女のジャージの所々が、自分のせいで焦げ付いていることに気づき、申し訳ないどころか面白く感じてしまう。
除籍なんて心配は始めから一切していない爆豪。
テストを楽しみ臨んでいた彼は、対照的な切迫された状況で必死にテストを受け続ける向の隣に立ち、視線を向けずに話しかけた。
「…てめぇ、クソモブ女。今の結果答えろや」
『…公式?非公式?』
「あ?」
『…689m』
残念な仕上がりにジャージを乾かしてやった際に、「全部の種目の結果についても答えろ」という条件を追加しておいて良かった、と爆豪は考える。
その結果を聞き、何よりもまず頭の中で「こいつは俺より劣っている」と暫定した。