第35章 さぁ原点へ
『大人は卑怯だ!!』
そう叫んだ向を置いて、相澤はキッチンへと向かうと、二人分のグラスに水を注ぎ、それをダイニングテーブルに置いて一席に腰掛けた。
トントン、とテーブルを指先で叩いた彼の召集に、向が不満ありげな顔でダイニングテーブルへと移動してくる。
「今日の議題はそんな話じゃない。もっと身近な話だ」
『なぜ今?どうして?もっと他にタイミングはいくらでもあるんじゃないのかなと私は思います』
「ポップコーンにカレーに熱盛蕎麦にゼリー飲料、もう…っもう腹一杯なんだよ!」
『そんなの今日の夕食には一切ありませんでしたが、なんなの?何そのラインナップ、そんなの誰だってお腹いっぱいになるよ!』
「今日、校長に呼ばれた。もちろん話題は、俺の同期が全国放送で無残にもバラした俺たちの関係についてだ」
さらっと無視された向はまだ反論しようと前のめりになっていた姿勢を、一旦正した。
相澤が提示してきた話題が話題なため、少し神妙な面持ちで向が固唾を呑む。
『……それで?』
「呼び出しの理由は二つだ。俺たちが現在、どのような関係にあってどのような距離感で生活をしているのか確認するため。そして、その答えによって処遇を決め、俺に伝えるため」
『えっ、減給とか?』
「…まぁ、そんなことも考えてたんだろうが。俺は遠縁の親戚で、親権は持たないが、事情があっておまえをここに置いてると話した。事情についてもあらかた。その方がいいと判断したからだが、気を悪くするなよ」
『大丈夫』
「で。校長は結局、俺に関しては報告義務を怠ったことについて軽く釘を刺してくる程度で大きな処分はなし。おまえに関しても、なんの処置もないと英断なさった」
『校長…血が通った人なんだね』
「おまえそういう言葉は知ってるのか。血が通ったマウスって方が正しい」
さらっと貶してきた相澤に、向が敵意のこもった視線を向ける。
その視線を受けて、特に居心地の悪さも感じていなさそうな相澤が首を鳴らしながら、言葉を続けた。
「処置がないからって今まで通りでいていいわけじゃない」
『……え?』
「……。」
おまえ、まだここに居たいか?
と問いかけてくる相澤に、向は目を丸くして、言葉を返した。