第34章 共に在る為
「彼女と暮らし始めて、世界が変わった」
こんな風に、彼女を特別に思っていると伝えただけで、理解してくれる大人が何人いることだろう。
尚更、「名前」を呼ばれることが当たり前の世界で生きている子どもには、理解など到底難しいに違いない。
孤独を感じた人間だけが、俺の言葉に耳を傾け、それと似た感情に覚えがあると、この情けないまでに肥大した俺の想いを肯定するかもしれない。
些細なことで喧嘩を繰り返し、好きだった人を大嫌いになるまで自分の気持ちをすり潰して。
それでも、相手を好きでいるだけでは、どうにもならない関係も確かにあると知って。
臆病と、疑念と、切なさに負け、独りきりを望んで生きてきた先で、ようやく出会った。
一緒に過ごす日々が増えていくにつれて。
滅多に無駄なものをテーブルに置いたままにしない彼女が、雑誌を数冊、リビングに置いて眠るようになっても。
俺と直接関係のない話題は一切口に出さなかった彼女が、気に入っていた女ヒーローが結婚してしまったから慰めてほしいなんて、どうでもいい話題で、書斎から出てくるや否や直談判してきても。
俺は、ほんのひと匙の煩わしさを許容して、そんな憂いとは無縁の生活を手放してでも、彼女と生活を共にすることを望んだ。
そして、以前はそんなことにすら、いちいち元同居人には苦言を呈していたことを思い出し。
自分もずいぶん大人になったな、なんて。
感慨深く感じるのと同時に、彼女との埋めようのない生きてきた時間の差を、虚しく思った。
(……あぁ、こういうことか)
似ているようで、似ていない元恋人と彼女の違い。
好き同士には変わりがないはずなのに、似ているようで似ていない「上手くいく」関係と、そうじゃない関係の違い。
深晴は滅多に乱雑な環境で生活しようとはしないし、その習慣が乱れるとすれば、体調が悪い日か、何か大変な1日を過ごしてきた日に限られる。
それに、俺の仕事中には絶対物音を立てたりしない。
住み分けがきちんと出来る。
出会ったタイミングが奇跡的だっただけじゃない。
それ以上に、俺が望む生活を、彼女となら自然に送ることができた。
ここまで擦り切れて生きてきて
誰かと一緒に在り続けても、上手くいく関係があるとするなら、それは深晴以外に考えられない