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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第34章 共に在る為




『おかえり』


2人の生活が始まった、次の日。
仕事から帰ってきた俺を見て、深晴はそんな言葉をかけてきた。
もう何年も言われたことのなかったその言葉に。
俺は一瞬、何と返していいか分からず。


「……あぁ」


そんな無愛想な反応しか返さない俺に、深晴は満足げな笑みを浮かべた。
リビングへと戻っていく彼女から良い匂いがするのに気づいて、後を追うと、頼んでもいない夕食が、2LDKに唯一置いてあるローテーブルに並べてあることに気づいた。


『一緒に食べよう』


テレビも、ソファも、ダイニングテーブルすら何もない。
殺風景で、簡素なリビングで。
そんなに彩っているローテーブルを、俺は初めて目の当たりにした。
いつから使うのをやめてしまったのか覚えていないほど、懐かしい食器を眺めて。
俺は、10年以上繰り返し続けた行動パターンから外れ、着替えもせず、喉を潤すことも忘れて、深晴の前に腰を下ろした。
何を食べても味がしなくて、口にすることすらやめてしまった食事らしい食事を、確かに美味しいと思った。


『消太にぃ、今日はどうだった?』


なんていう当たり障りない言葉ですら。
もう何年も、問いかけられたことはなかった。


「…………。」


せっかく作ってくれた食事を。
俺は食べ終わるまで、終始無言で食べ続けた。
そうしないと、いつもは望んでも出てきてくれない涙が溢れて、堪えきれなかったからだ。
そんな俺に気づいていたのか、深晴は次第に問いかけてくるのをやめて。
初めて2人で囲んだ夕食を、俺と彼女は一言も言葉を交わさずに、終わらせた。





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