第34章 共に在る為
いつからか。
どうせ何を食べても何の感想も湧かないのだからと、食事を摂ることすら面倒になって。
何を観ても、何をしていても。
何の楽しみも見出せないのだからと、無駄な時間を全て睡眠に費やした。
ひどく、毎日が眠くて。
全てがどうでもよく、抜け殻のような日々を過ごした。
彼女との生活を始めたのは、そんな日々が3年以上続いたある日。
現在から、1年近く前の事だ。
やたらと参加しろと言われ続けたせいで、嫌々ながらに礼儀として参加した親戚の集まり。
親戚一同に、「所帯も持っていないし、ヒーローなんだから」なんて無責任極まりない理由だけで、彼女を押し付けられた。
30近くにもなって、所帯も持たずにいる甲斐性のない遠縁の男の家に、年端もいかない女子を住まわせる。
親族は初めから俺に預けるつもりだったんだろう、そんな非常識が「打開策」としてまかり通るほど、血の通っていない大人どもを目にして。
俺は二度と親族の集まりに顔を出さないことを条件に、深晴を引き取った。
親権は、彼女の母親に残したまま。
ただの同居人としての生活を彼女と始めつつ、俺は同時に、彼女に一人暮らしをしていくだけの生活力があるのかを確認出来次第、住居は別にしようと考えていた。
『消太にぃは何の仕事をしてるの?』
「…ヒーロー兼教師。個性もおまえを押しつけるには適任だからな。ある程度の生活費は親戚から受け取ってる。だから、おまえは生活費に気を揉む必要はない。だが代わりに、自分のことは自分でしろ」
『うん、わかった』
「…押しつけられたっていうのは言葉のあやだ。俺も同意した。だから…」
『……ん?大丈夫、それにしても消太にぃには感謝してもしきれないなぁ』
不束者ですが、よろしくお願いします。
なんて、完璧に作り上げた笑顔を浮かべて、深晴は家主の俺にそう言った。
彼女と暮らし始めて、すぐにマイクが言っていた「上手くいく関係」というものが、どういうものなのか理解した。
おまえたちが一緒に暮らせるわけがないと、あんなに「上手くいっていた」俺と当時の恋人に、周囲の人間が待ったをかけた理由も。
誰かと暮らす苦痛を覚悟して引き取ったはずの深晴との生活は、まるで歯車がかっちりとかみ合うように、信じられないほどスムーズなものだった。