第34章 共に在る為
独りになって、また生活を始めてみると。
信じられないほど、身体も心も軽くなった。
2人しか住んでいないはずなのに、中途半端に飲み物が入ったグラスを、3つも4つもテーブルの上に見かけることも。
仕事を終わらせてしまいたいのに、やれ芸能人の不倫騒動だ、やれドラマのこのシーンだけでも見てくれとかいう理由で、書斎から引きずり出されることもなくなった。
「オイオイ老けこむのは早いぜイレイザー!次行け次!だから合わないからやめとけっつったろ?好きなだけじゃ上手くいかない関係ってのが、この世にはあるんだよ」
確か、別れてすぐ、マイクにそんなことを言われた。
俺はその時。
(…なんで、次に行く必要がある?同じ失敗を二度繰り返す意味なんてないだろうが)
なんてことを、考えてしまい。
それから、一切。
「そんな理由」で、誰かに関心を抱くことも、好意を持つこともなくなった。
一年
五年
八年、経って。
独りの生活に何の不満もなく過ごしていたある時、気づいた。
「イレイザー、今晩飲みに行こうぜ!」
「相澤先生、この資料渡しておきますね」
「イレイザーヘッドさん、この依頼を受けていただけませんか」
(…………。)
そういえば
最後に「名前」を呼ばれたのは、いつだっただろうと。
(……まぁ、どうでもいいか)
そう結論づけて、誤魔化すように過ごした日々は。
まるで、独りで生きる気楽さと、虚しさから目を背け続けるようなものだった。
決まった時間に起きて、決まった時間に食事を摂って、決まった時間に仕事場へと向かう。
自分を示すものは、コードネームか、先生という代名詞、そして相澤という、一線を引いた距離からの言葉だけ。
一度、気づいてしまえば。
誰かに呼び止められるたび、微かな空虚感が湧き上がってくる。
26にもなって、情けない。
老けこむのが早いなんて言われたのは、もう8年も昔の話。
今じゃもうすっかり、手遅れだ。