第4章 怪しげな少年BとT
「向さん、鼻血止まらなくなったって大丈夫!?」
『……おぉ、出久』
実際にはおそらく骨折による出血なのだが、飯田たちが周りの生徒に聞かれてそう答えるしかなくなったのだろう。
少しだけ事実よりも愉快な理由で席を外していたことになっていたことを知った向だったが、特に訂正することなく、駆け寄ってきた緑谷に対して『フラグ回収したよ』と律儀に報告した。
「…おや?向くん、その測定器壊れてるみたいだぞ」
飯田の指摘に、その場に集まっていた向と、緑谷、そしておそらく葉隠も、向の右手に握られた測定器を見た。
『いや、壊れてないよ』
「だが、780kgwと表示されているじゃないか?」
『うん、だろうね』
「……え?」
向は測定器を持って、立ち幅跳びの記録を取っていた相澤の元へ向かった。
そして、何かを話して、測定を一度相澤の目の前でやってみせた後、すぐに戻ってきた。
『…立ち幅跳びか、がんばろう』
「えっ、まって、握力テストは?」
『終わった』
「終わった?えっ、あの数値が正しかったの!?」
『いや、ちょっと1回目よりはブレたけど。頭痛くてなにもかも厳しい』
幅跳び跳んだら、意識飛びそう。
なんて笑えない冗談を一人で笑いながら、向は心配してくる緑谷たちから離れて幅跳びの列へと並びに行ってしまった。
(………。)
その様子を眺めていた爆豪に、ずっと遠巻きに向を眺めていた切島が話しかけた。
「向、戻ってこれて良かったよな!」
「……あん?」
「テストも最後まで受けられずに除籍なんて、絶対嫌だろうしさ」
明るく話しかけてくる切島の声を遠くに聞きながら、爆豪はふらつきながら歩く向の横顔を眺めた。
さっき話していた時よりもさらに血色が悪い。
集団から外れて一人になると、途端に眉間にしわを寄せて目を瞑る彼女の激痛の理由は、想像に難くない。
立ち幅跳びの着地では、地面に足をつける時、頭のてっぺんまで突き刺すような衝撃が届くだろう。
どうやってその場をしのぐのかと観察していると、向は両足で地面を蹴って、また一切身体を動かさずに宙に浮かんだあと、ある程度のところまで進んで、ゆっくりと地面に降り立った。