第33章 子どもの事情
『帰ろ、勝己』
「うるせ、勝手に帰れ!!俺はてめェにもイラついてんだよ!!」
『じゃあ、寒いから先帰るね…あぁ、あとさ』
「なんだクソ女!!しつこく話しかけてきてんじゃねぇよ!!!」
『言われた通り見てたよ』
「アァン!!!?」
かっこよかった。
そう言う向は未だプルプルと凍えながら、血色の悪い手で爆豪の頭をわしゃわしゃと撫でた。
『一位おめでとう、次は私と勝己で戦えるといいね』
なんて、爆豪の気持ちをこれっぽっちも理解していないらしい向は、彼の返答を聞くことなく、教室を後にした。
「……ぷっ、頭撫でられてやんの」
なんて笑った上鳴は見事に爆豪の地雷を踏み抜き、何の躊躇もない一撃をボディに食らい、グハァッ!と呻いた。
ブッ殺す!!と公に殺人予告をした友人を切島が必死に押さえ込み、上鳴の懺悔が教室にこだました。
「向!」
『……焦凍』
向を追って、教室から飛び出してきた轟。
振り返った彼女に、轟は自分の携帯を見せた。
「……おまえの連絡先、知らない。教えてほしい」
『あぁ、喜んで』
「…家まで送ってく」
『いや、大丈夫!』
「…じゃあ、家の近くまで。駅、一緒だから」
『えっ、そうなの?』
「そんな目に遭わせといて言うことじゃねぇが、心配だ。どこかで倒れるんじゃねぇかって」
『大丈夫大丈夫』
「いいから」
押しの強い轟と、押しに弱い向。
そんな2人は、周囲の羨望の眼差しを集めながら、一緒に下校していく。
「向、明日…休みたいか?」
『明日?どうして?』
「良ければ、夕方から会ってほしい」
『夕方から?それは、どうなのかな…』
「昼に、見舞いに行こうと思ってる。けど、正直…良い返事が聞ける気がしねぇ。どんな結果であれ、おまえに会って聞いてほしい。体育祭までの二週間、まともにおまえと話してないから話したいってのもある」
母に会いに行く。
それは、轟にとって、どれほどの恐怖と期待を孕んだものなのだろう。
向は、ぽつぽつと話しながら歩き続ける轟の横顔を見て、ぼんやりと彼の気持ちを推し量り続けた。
ダメか?
申し訳なさそうに、すがるような目で見てくる彼の視線を受けて。
向は、彼を安心させる為だけに、笑って、返事を返した。