第4章 怪しげな少年BとT
爆豪と一緒にグラウンドへと戻ってきた向は、目のすぐ下から顎をだいぶ通り過ぎたところまで覆い隠せるほどの大きなマスクを着用していた。
『やぁ、迷惑かけたねキミたち』
どうやらアドレナリンだけで痛みを緩和しているのがありありと分かるほどやたらと陽気な彼女は、第2種目の握力テストを終えようとしたギリギリのタイミングで戦線に復帰した。
『あっ、先生すみません、ちょっとあまりにグロテスクだったもので近寄るにも近寄れず』
「お前、マスクしてテスト受ける気か?そんな舐めた真似するつもりなら即除籍だからな」
マスクを取れ、と向の左耳に向けて手を伸ばしてくる相澤に、向が『え、だめじゃない?』と不思議なコメントをした。
ハッと目を見開いて、向に向かって伸ばしていた手を止めた相澤を見て、周りの生徒たちが、どうしたんだろうかと囁き合う。
向の言葉を聞き、生徒たちの中に真意を理解できる者はいなかったが、唯一、その言葉を向けられた相澤だけは理解することができた。
『今すぐ握力テスト終わらせるんで!私に構わず続けてください!』
「……さっさとしろ」
ふいっと向から目をそらし、第3種目、進める人は進もうねー、とアナウンスする相澤。
その姿を確認し、葉隠と飯田はコソコソと向のもとへ集まった。
「向さん、ほんとに大丈夫!?」
『大丈夫大丈夫ヘーキヘーキ』
「恐ろしくセリフが単調になっているが…もし無理そうだとボクが判断したら、すぐに相澤先生に進言するからな!」
『大丈夫大丈夫』
あとなんかジャージ焦げてるぞ!何があった!?と聞いてくる飯田に、向は明るい声で問いかけた。
『キミ、自分のことボクって言ってたっけ。気のせい?』
「……言ってないぞ、気のせいだ!やっぱり少し頭が朦朧としているようだな!」
『あぁほんとに?それは失礼、ところでキミ誰?』
「なっ…本当に朦朧としているのか!?」
『いやいや、そうじゃなくて。名前を教えて』
「そうか、良かった。そういえば名乗っていなかったな。ボ……俺は、飯田天哉だ」
「わたしは、葉隠透!」
『あぁ、よろしく』