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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第33章 子どもの事情




ーーー私も、焦凍と一緒に考えるから


(………。)


選手控え室で、轟は向の言葉を思い出していた。
向との試合は、まるでお互いが溜め込んだ不安や不満を、相手にぶつけ合うようなものだった。
高ぶった感情のままに、大切な友達を氷漬けにしておいて。
罪悪感よりも先に轟の心に芽生えた感情は、人として絶対に抱いてはいけないものだ。
彼女を心から大切に想うのなら、なおさらのこと。
すぐに我に返り、彼女を氷結から救い出したが、嫉妬に狂った自分はその直前。
轟の胸に飛び込んでくるような体勢で凍りついた彼女を見て、数秒の間、目を見張った。
気高く、優美な彼女の氷像。
呼吸を忘れ、魅入った。
世界から音が消えたのではないかと錯覚するほど、何も聞こえず、向以外には、何も見えなかった。
それほどまでに、彼女はひどく儚げで、美しかった。


(……最低だ、どう考えても)


試合の終盤。
未だ冷静さを取り戻せない轟に、向は、凍える身体の力を振り絞り、言ってくれたのに。


(……向と、一緒に)


あれだけ冷え込んだフィールド上にいたのに、何故だか身体の芯が温かい。
医務室で彼女を抱きしめたことを思い出し、両手を見つめた。
右手と、左手。
幸福な時間はすぐに終わり、頭の中にまた、父親の声が響き始める。


(………考え、ねぇと)


ーーー君の!力じゃ、ないか!!!
ーーー焦凍、考えなきゃダメだよ


(…あいつらと戦うまで、「考える」なんて…考えもしなかった。お母さん、俺は…)


轟が物思いに耽っていると、控え室の扉が荒々しく蹴り開けられた。


「…………あ?あれ!?何でてめェがここに…控え室…あ、ここ2の方かクソが!!」


現れたのは、どうやら自分の控え室と場所を間違えたらしい、爆豪だ。
その騒々しい物言いを、まるで聞かなかったことにするように、轟が視線を逸らした。
イラっとした爆豪が机を叩くと同時に爆破を起こす。
「どこ見てんだよ!」という爆豪の言葉に対して、轟はようやく反応を見せた。


「…それ…緑谷にも言われたな。あいつ、無茶苦茶やって他人が抱えてたもんブッ壊してきやがった」


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