第33章 子どもの事情
「…そういや爆豪、おまえに訂正しなきゃいけないことがある」
「あ!?」
轟はじっと爆豪を見つめ、宣戦布告した。
「…向に肩貸すくらいの立場、おまえにくれてやるって言ったが…悪ぃ、見栄張っただけだ。その程度のことすら譲りたくない」
「………あ?」
「俺は、向に想いを寄せてる。だからおまえのあいつへの気持ちがただの所有欲程度なら、俺の邪魔はしないでほしい」
一切の照れも、動揺もなく。
轟は爆豪に向かってそう言った。
その宣言を聞いて目を見開いた爆豪は、わなわなと両手の指を震わせた後、ガッ!と机を蹴り飛ばし、怒鳴り散らすように言葉を返した。
「あいつのことなんかどうでもいんだよ……!!ウダウダと…てめェの家事情も気持ちも!どうでもいいから、俺にも使ってこいや炎側!!」
「……!」
爆豪の口から出た「家事情」という言葉に、轟が眉間にしわを寄せる。
荒々しく扉を開け放って出て行くクラスメートを見て、轟は無言のままに、ひっくり返されたテーブルを正した。
ーーー俺は、向に想いを寄せてる
(……クソが…轟の奴、やっぱり思ってた通りじゃねぇか。俺より執着してるくせに、あのクソ野郎今まで涼しげな顔して、だましてやがったんか……!)
ーーーただの所有欲程度なら、俺の邪魔はしないでほしい
(……っクソ……クソクソクソ、今はんなことどうだっていい!あいつをブッ倒して、俺が一位に…!!)
ふと。
爆豪の頭の中に、モニターに表示された、氷漬けになった向の顔が思い浮かぶ。
頭の中で再生されるのは、園庭で向の隣に並んで、穏やかな時間を過ごしていた時のこと。
爆豪と、戦いたい。
そう言った彼女の言葉を思い出し、爆豪は言いようのない気持ちにかられた。
(……クソ……!)
戦いたい。
彼女はそう言ったが、爆豪はその時、そんなこと欠片も望んでいなかった。
強い相手と戦う度、自分が経験を糧に強くなっていくのを自覚していながら。
彼女とだけは、戦いたいと思わない。
どうしても、全力で戦える気がしないからだ。