第32章 大人の事情
(…親子共々、口が不躾だな)
偉そうに肩を揺らして医務室の扉へと手をかけるエンデヴァーを相澤が見送った。
医務室はリカバリーガールのテリトリーだ。
あの婆さんが追い返すだろう。
そう打診して、その場から立ち去ろうとする直前、予想通りリカバリーガールの雷が落ちる音を聞いた。
(言わんこっちゃない)
しかし、ざまぁみろ、と頭の中で貶しても、相澤のむしゃくしゃとした感情は、しばらく収まってくれそうになかった。
ーーー先生は?
ーーー仮にも担任
(……そうだよ。それ以外に何が要る)
担任と、親戚。
それ以上でも以下でもない。
だったらなんで。
(…なんで、あんな顔)
ーーーだ、大丈夫焦凍。ありがとう
医務室に現れた、相澤を見た瞬間。
轟に抱きしめられていた向の表情が、急に焦ったものへと変わった。
(…………なんで)
そう問いかけたいのは、自分自身に対しても。
轟に抱きしめられていた向を見た時。
一瞬自分の胸に飛来した感情の名前がわからないほど、ガキじゃない。
そして、その感情をすぐに搔き消すことができるほど、大人でもなかった。
「……………。」
一歩、一歩と。
彼女から離れていく足取りが重い。
戻れば同期に聞かれることだろう。
うざいドヤ顔で、どうだった?、と一言。
彼が矢継ぎ早に聞いてくるであろう質問を頭の中で思い浮かべ、相澤は。
一度だけ、後ろを振り返った。
突如。
医務室に部外者が現れた。
「少女!君をエンデヴァーヒーロー事務所へと推薦しよう!」
ノックも何もなしに現れたそのプロヒーローに対し、リカバリーガールが選択したバトルコマンドは
たたかう
どうぐ
まほう
にげる
の内
▶︎どうぐ
だったはずなのだが、彼女は手に持っていた杖を道具としては使わず、槍のように投げ、エンデヴァーの顔面にうまく命中させた。
「アイタァ!何をするご老人!!」
「あたしゃまだ老け込んじゃいないさね。ノックもせず、断りもいれずに部外者が立ち入ってくるんじゃないよ!」
『あれ。プロヒーローエンデヴァーだ、サインください』
「それどころじゃないだろう!はやくスープ飲んであったまんな!」