第32章 大人の事情
「チユ〜〜〜〜!!!」
『うわぁ…………』
「うわぁってなんだい」
『いや…感動のあまり』
治療室に運ばれ、ベットへ横たわったままの向は、リカバリーガールの治療が済んでも、未だガタガタという効果音を自身の身体から発生させていた。
冬でもないのにリカバリーガールが引っ張り出してきた三つのストーブに囲まれた向は、ベッド際に腰掛けた轟に気を使ってなのか、身体を起こして診察椅子まで移動した。
「…悪い。本当…やりすぎた」
『いやいやいや頭をおあげよ』
移動した向の側までストーブをせっせと運び、深々としたお辞儀をしてくる轟。
向はその轟の左手を掴み、暖をとるように手をかざした。
しなっとした顔になっている轟を見て、向は何かを考えたあと、深くため息をついた。
『私が煽ったからいけないんだよ。焦凍は…えーっと…注意?してくれてたのに』
「なんにせよやり過ぎた。…寒さ以外の、痛みはないか?」
『うん、大丈…』
ギュッ、と。
目を丸くするリカバリーガールの目の前で、向を轟が横から抱きしめた。
2人の女性の驚愕の視線が轟に向けられるが、轟は申し訳なさそうな顔をするばかりで、自身の行動に対しての説明をしようとはしない。
「…あんたたち、そういう関係かい」
『いや!いやいや違います、どうした焦凍!?』
「寒そうだから。…あぁ、嫌か」
『あっ、そういうこと!?そういうのは一言聞いてくれた方が助かるかな!?』
「……。」
悪い、と耳元で囁きながらも、轟は向から離れない。
助けて、という視線を向から感じ取り、リカバリーガールがコホン、と咳払いをした。
「轟、次決勝だろう?この子のことは任せて、もう観戦席に戻りな。研究しなきゃ勝てない相手だろうさ」
「…いや。向の側にいます」
『大丈夫!大丈夫だよ轟少年!いやーだいぶ温まったなぁ焦凍のおかげだよどうもありがとう!!』
ジタバタとし始める向を見て、轟がまた何かを言おうとした時、医務室の扉がノックされ、開いた。
「おや、イレイザー。もう解説の仕事はいいのかい?」
『えっ!!!』
バッと振り返る向に合わせ、轟も顔をリカバリーガールの方から、出入り口の方へと向けた。