第30章 血も凍るほど熱烈に
朝焼けに佇むおまえを見た時。
たしかに、誰にも抱いたことのない感情を抱いた。
おまえと話した日数なんて、5日に満たない。
それでも、ふとした拍子に視線が交差するたび。
俺は息を吐いて、自分の胸を落ち着かせた。
恋とか、愛とか。
そんなものじゃない。
そんな言葉では表したくない。
表せるわけがない。
だって、こんなに。
『…っ焦凍、考えなきゃダメだよ』
「………。」
『…一緒に、考えよう。きっかけを出久にもらったんでしょう?忘れてたこと、思い出したんでしょう?なら、見ないふりしたらダメだよ』
「…一緒に」
『一緒に。私も、焦凍と一緒に考えるから』
こんなに、俺はおまえを欲してる
「お母さん、ケーキ食べないの?」
親父が初めて、ケーキを買ってきたあの日。
俺は余った一つのケーキを見て、問いかけた。
「……そうね。食べなきゃいけないんだけどね」
親父が買ってきたそのケーキを。
お母さんは困り顔で見つめて。
結局食べることはなく。
「…焦凍、お兄さん達には内緒よ」
なんて。
姉さん達には内緒で、俺に二つ目のケーキをくれた。
親父は、甘いものなんて食べたりしない。
俺と、兄さん2人と、姉さん、それからお母さん。
親父が5つのケーキを買ってきた理由は、そのうちの一つが、確かにお母さんの分のケーキだったからだ。
本当に?
親父は欠片も、俺とお母さんを大切にしていなかった?
お母さんは、俺のこと嫌いで
醜く思っているのに、自分の分のケーキをくれたのか?
(ーーーあぁ、わかってる)
こんなの子供じみた反抗期。
思い出したからには、知らないふりはもうできない。
でも向。
もうどうしようもない。
腹の中がぐちゃぐちゃで、考えようとすると俺の中で何かが蠢いて。
<<ミッドナイト、止めろ!>>
ずっと黙っていた担任の声が耳に飛び込んできた。
俺は深く深く息を吐いて。
自分の中のスイッチが切り替わる音を聞いた。
いつか、緑谷が言っていた。
先生の事務所は、俺の家のすぐ近くだって。
いつか、朝方向を見かけた浜辺は。
その事務所からほど遠くない場所にあった。