第30章 血も凍るほど熱烈に
「彼女?カレー好きだよね☆」
「向ちゃん?カレー好きって聞いたよ!なになに轟くん、身辺調査が始まったのかい!?飯田くんにはもう宣戦布告した!?」
「えっ、向さんのこと?うん、向さんの個性もノートにまとめてるよ!え、個性じゃなくて知ってること?…んーと、そういえば麗日さんが、カレー好きだって言ってたかな」
「向…?あいつのスリーサイズが知りたいって意味か?それはオイラも調査中……な、なんだよぅ…そんな目で見んなこえーから!!」
「あァ!?知るか俺にんなこと聞いてどうするブッ殺すぞ」
「深晴?あんまり曲聞いたりしないってさ、あとカレー好き」
「深晴ちゃん?…ケロ…あんまり自分のこと話してるの見たことないわ。聞いたら教えてくれるけど」
みんな、みんな。
おまえのこと、あんまり知らないって言うんだ。
俺より全然一緒にいるくせに。
「向?あぁ、よく俺と爆豪と上鳴と一緒にいるよ!知ってること?……そうだな、色々あるけど…一人っ子で、今は親と離れて暮らしてるんだってさ。あと好きなものは甘いものと、映画と、カレー。他、聞きたいことある?」
「…親と離れて暮らしてるって、誰と?」
「親戚の家って聞いたけど…どこの街に住んでるのかは聞いたことないな。聞いてみたら?結構気、合うみたいじゃんおまえら」
「……いや、いい」
「そう?」
切島は、他の奴と比べて少しだけおまえのことを知ってた。
情報源を探し回ってたのに。
俺の知らないことを知ってたら知ってたで、気に食わなくて、早々に話を切り上げて、会話を中断した。
みんな、みんな。
おまえがカレー好きだと思ってる。
おまえがどんな気持ちでいつも、カレーを食ってるのか、何も知らない。
過去に囚われて。
その面影が視界に入ると、手を伸ばさずにいられない。
俺は、わかる。
自分を痛めつけたいわけじゃない。
それでも、自ら進んで自分を責め立てる。
そんな罪悪感から逃れられないクソみたいな毎日を生きてきた。
俺は、蕎麦を嫌わずにいれたから。
蕎麦なんかより、そんなことをした自分を嫌いになったから。
毎日だって口にできるけど。
カレーが好きなわけでもないおまえは、どんな気持ちで。
一体どんな気持ちで、毎日、毎日。