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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第29章 さいごに囲んだ夕食




次の日から。
俺は何となく、向を視線で追うようになった。


『…!』
「……。」


向は俺と目が合うと、まるで。
見ているこっちまで、ささくれ立った心が穏やかになるような、幸福そうな笑みを浮かべた。
まるで俺の身体の芯にまとわりついた霜を瞬時に溶かすような、温かい微笑み。
だから、食堂で右往左往している向を見つけた時。
雷に打たれたような衝撃を受けた。


「…向」
『焦凍。…蕎麦、食べたの?』
「あぁ。おまえは?」
『迷ってる』
「15分も?」
『えっ、そんなに?やらかした』
「おいこら深晴!いつまで喋ってんだ!!」
『まずい…怒られる』


向はメニューを眺め、どの列に並ぼうか悩み続けていたらしい。
彼女を待っていたらしい爆豪が、遠くから怒鳴り散らしているのが聞こえてきた。
大方、ちょうど爆豪の視界に入ったタイミングで、俺と向が話し込んでいるように見えたんだろう。


「…悪ぃ。話しかけなきゃよかったな」
『あぁ、全然。声かけてくれてよかった。カレーにする』


じゃあね、と。
俺に手を振って、困り顔で、カレーの列に並びに行く向を見て。


『…あれっ、焦凍食べ終わったんじゃ?』


俺は向を追いかけて、その隣に並んだ。
俺を見た向は、珍しく驚いた顔をした。


「…おまえ、昨日も一昨日もカレーだろ」


俺も、昨日も一昨日も蕎麦。
そう言うと向は、俺に不思議そうな顔で問いかけてきた。


『……一番ハズレない、から?』
「いや、蕎麦が好きだから。でもおまえ、違うだろ。一番ハズレねぇから、選ぶ時間が足りねぇからカレーなんだよな」


向は、俺がどうして隣で一緒にカレーが出てくるのを待っているのかようやく気づいたらしい。


『そっか。私が昨日隣で待ってたから?ありがとう、ちなみに私はどの料理もちゃんと、食べたことあるよ。でもカレーだけ特別だから、いつも迷って、結局カレー』
「カレーが特別って珍しいな」
『お父さんと最期に食べたんだよね』

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