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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第29章 さいごに囲んだ夕食




自動販売機の前で向を見かけた、二日後。
昼飯の約束を忘れた向に交換条件を出して、2人で帰った。
校舎を出る少し前に、向が提案してきた。


『昼すっぽかしちゃったの申し訳ないからさ、ジュースか何かお詫びにいかがです?』
「…いらねぇ」
『まぁまぁそう言わず』


俺の意見を聞かず、自動販売機に小銭を入れた向はにこやかに笑って言った。


『どうぞ』
「………」


俺は自動販売機を眺めて。
それから5分間考え続け。


「…やっぱりいらない」
『待つから、ゆっくり考えていいよ』
「…ゆっくり考えても決められない」
『んー?訓練だとテキパキしてるのに』
「…戦闘に関しては判断できる。けどどうでもいいことに関してはどうでもよすぎて選べない」
『どうでもよすぎて?どれも知らないからじゃなくて?』
「………どれも知らない?」
『私は知らないとすごく悩む。この中だったらアンバサダーって何ジュースか知らないから気になるし、ナタデココジュースも』
「……委員会もか」
『委員会?あぁうん、どの委員が何する仕事なのかわからなくて。小中適当に先生の話聞かずに生きてきたツケが回ってきたよ、迷ってる間に全部決まっちゃった』


(………おまえも)


向も、一緒だと知った。
だから。
その話を聞いて、俺は問いかけてみたくなった。


「…じゃあ、知らないものの中から急いで何か一つを選ばなきゃいけない時、どうしてる?」
『とりあえずハズレなさそうなものを選ぶ』
「とりあえずは、どうやって選ぶ?」
『あの人これ美味しいって言ってたなーとか、思い出す』
「思い出せなかったら?」
『大丈夫、考えてるうちに段々考えるのも飽きてきて、もうこれでいいやってなるから』
「妥協か」
『いや、成長だよ』
「……」
『昨日より少し早く妥協できたなぁ、大人へ近づいたなぁ、自分。はい成長!みたいなね』


まずは考えてごらんよ、と。
屁理屈が得意な向と話しているのが、なんだか新鮮で。
俺は待っていてくれるという向の隣に並んで、ジュースを決めてみることにした。
それから、何分も何十分も。
ずっと決められないでいる俺の隣に立ったまま。
向は俺を急かすことはなく、たまに様子を伺う俺に、柔らかく笑いかけてきた。

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