第28章 凍える熱情
物心ついた時から、ずっと。
与えられたものの中で生きてきた。
「焦凍、早く決めてよー!」
「決まんないなら俺から先に決めたいー!」
「ダメよ、こういう時は、一番歳の小さい子から選ぶものなの」
緑谷と戦ったついさっきまで忘れていた記憶。
試合が終わって、ふとした拍子に思い出した。
俺と兄さんたちとお母さんで。
いつか親父が珍しく家族に買ってきたケーキを食べた。
色んな種類のケーキが目の前に並べられているのを見て、俺はどれだけ時間をかけても、「これが良い」って言えるものを見つけられなかった。
「じゃあ焦凍はショートだから、ショートケーキね!はい、決まり!」
「…じゃあ、それでいい」
「焦凍、ゆっくり選んでいいのよ?冬美、あまり急かさないの」
「えーだっておっそいんだもん!」
「なんだ焦凍まだ食べてないのか!早く食べて、訓練場に行くぞ!」
「あなたも、あまり急かさないでやってよ!たまには訓練ばかりじゃなくて、ケーキの一つでも一緒にゆっくり食べてやったらいいじゃない!」
「もう30分待った!!俺はいらん、早くしろ!!」
「もう、やめて!怒鳴らないで!!」
「…それでいいよ、お母さん。俺ショートケーキでいい」
「…えっ?本当にいいの?焦凍」
「うん」
その時、俺は。
俺を庇うせいで、毎日疲れた顔をしているお母さんをそれ以上困らせたくなくて。
姉の言うまま特に気に入ったわけでもないショートケーキを食べた。
(…あぁ、嫌な記憶だ)
でも、本当にそうだろうか
(親父が悪い。全部あいつが)
本当に
親父はお母さんを欠片も大切にしていなかった
(………っ考えたくない………)