第26章 モブの隠し事
『ほどほどの可愛さは必要?』
なんて言葉尻を取って、クスクスと大人びた笑みを浮かべる向に答えた。
「必要。外見じゃなくて、中身の話」
『ハイハイ、男っていつもそう』
「おまえは男の何を知ってるんだよ」
『何も知らない、男の子って未知だよね』
「男からしたら女子の方が謎。あの映画見て、みんなキャーキャー言ってるかと思うと」
『キャーキャーとまではいかないけど、ドキドキとはするよ』
「結局おまえもか!さっき、ヒロインに物申してたろ」
『映画にドキドキしたわけじゃなくってさ』
「………?」
誰と見るかによって、映画の面白さは変わるよ。
向は、何かを思い出すかのように物思いに耽りながら、そんなことを教えてくれた。
(……誰と、見るか)
「…俺は、まだそういう異性と映画、見たことねぇよ」
『ははは』
「おいそこは笑うな!」
『私もない』
「…は?今なんかちょっと思わせぶりな顔したろ」
『思わせぶり?だって本当に無いからさ』
「じゃあ今誰のこと思い出してたんだよ」
『大切な人』
「……好きな奴、いたのか」
『はっはー、残念そんなんじゃないよ』
そう答えた向はカラカラと笑って。
俺はパッと顔を逸らして、また話題を探した。
『恋愛映画が苦手なら、鋭児郎はどんな映画を見るの?』
そんな俺に気づいてなのか、向は俺に問いかけてきた。
「…あー、恋愛以外ならたまに見っかな。アクションとか好きだし」
『あれだって起承転結ありまくりじゃん』
「恋愛モノよりはまだ熱くなれる。共感してなんぼだろ、映画って。…でもさ」
『……ん?』
「いつも、思うんだよな。何見ても…俺はやっぱ、なんでもない日常を描いた映画が見たいって」
朝起きて。
学校に行って。
友達と当たり障りない日を過ごして。
特になんの大事件が起こることもなく。
面白い話が聞けたわけでもない。
そんな1日が終わって、また明日。
「…なんかさ、地味だけど…そういうの、いいなって思うんだよ。誰かが何かに巻き込まれたり、悲しんだり、失ったりしなくてもさ、また明日が来て、また変わらない日常が続いててさ」
そんな映画、地味すぎてきっと人気でないけど。
そう言って笑った俺に、あいつは言った。