第26章 モブの隠し事
「切島、昨日の金曜ロードショー見た?もー俺マジ感動した、マジ最高」
「はよー上鳴!…あー…俺あんま恋愛系の映画見ないんだよな」
「なんで!?あ、さてはアレか、黙って映画見られないヤーツか」
「いいや、あんま感情移入できないヤーツ」
「意外!おまえベッタベタの純愛モノ好きそうなのに」
「ベッタベタっておまえの語彙力どうなってんだよ」
っていうか、アレのどこに感動?
なんて聞いた俺の言葉を聞く前に、上鳴は登校してきた向を見つけて、駆け寄って行った。
「深晴、はよっ!」
『はよ、電気』
向は上鳴に笑顔で挨拶をして、俺と目を合わせ、同じ微笑みを向けた。
「おはよ、向」
『おはよ、鋭児郎。昨日の金曜ロードショー見た?』
「見てない。おまえは?」
『見たよ』
「マジ感動もんだよな!」
『そうかな?』
「………ん?」
向はハハハと笑って、言った。
『主人公、見る目ないと思った』
どうしていつも。
恋愛映画には、劇的な展開が必要なんだろう。
運命的な出会いを果たしたり。
相手を好きになるきっかけが訪れたり。
ヒロインと2人、手に汗握る大事件を乗り越えて。
ヒロインの為にたくさんのライバルと戦って。
ラストでようやく告げられる。
俺はおまえが好きなんだよって。
あの日、あの時。
おまえが俺を救ってくれたから。
あなたが私を助けてくれたから。
あぁ、なんてお決まりな展開。
別に嫌いじゃないけど好きでもない。
だって何がいいのかわからない。
どうして運命の相手じゃなきゃいけないのかわからない。
どうしてきっかけが必要なんだろう。
大事件、起きすぎじゃないのかな。
なんでそんなに、みんなヒロインしか見えてないんだ。
『意外とリアリストだね、鋭児郎』
「そうか?結構男子的には、こういう目で見てるやつ多いと思うけどなー」
『憧れる人もいるもんなのさ、みんなの視線を一身に集める…そんな人間離れした魅力溢れるヒロインに』
「俺はそんな競争率高そうな奴じゃなくて、普通にその辺にいそうな奴で十分だけどな」
『普通にその辺にいそうって、どんな人?』
「ほどほどに優しくて、ほどほどに元気で、ほどほどに可愛い」