第26章 モブの隠し事
そのバトルが開始されたのは、観客の視線を集めて離さないフィールド上…ではなく、観戦席の二つの座席の上だった。
「おっ、向余裕で勝ちそうじゃん!次は俺らだな、爆豪!」
「また舐めプかあの女…!」
爆豪が睨みつける下層のフィールドでは、B組塩崎のスタートほぼ同時にくり出された茨攻撃を、向が突っ立ったまま反射したところだった。
「舐めプっていうかさ、決勝見据えて力セーブしてんだろ?緑谷もおまえも全力でやり過ぎなんだって…まぁ、男らしいっちゃ男らしいけどよ」
向は真剣な表情で塩崎を見つめ、ゆっくりと彼女に向かって歩き続ける。
ノーモーションで塩崎の茨を弾き飛ばした向に警戒し、遠距離攻撃を続ける塩崎。
向に容赦なく巻きつけられる茨は、彼女の身体を覆うような不可視の膜に阻まれ、その歩みを止めることができない。
「来ないでください!」
恐怖心から上ずった塩崎の言葉に、向が軽く息を吐きながら答える。
『じゃあ、自分で止めなよ』
<<向、得意のベクトル変換で全てのベクトルを「反射」!!そんなんあるならもっと早くに使っとけーー!!>>
「あー、またマイク先生も焚きつけるし。あいつ個性使いすぎると目眩起こすって知らねぇのかな」
「……………は?」
切島が呟いたその言葉に、先ほどまで向が座っていた座席でイライラと貧乏ゆすりをしていた爆豪が食いついた。
「え?爆豪も知らねえの?あいつの個性、結構後から反動来るみてえなんだよ。目眩が起こる時間はまちまちらしいけど」
「…………切島、なんでてめェ知ってんだ」
「なんでって、向から聞いた。おいおい、好きなのにそんなことも知らないのなー」
「好きじゃねぇよ!!死ね!!」
「死なねーし、殺したいならフィールドで殺せ!」
そんな惨劇テレビで映すなよ、と冷静にツッコミをいれた瀬呂の言葉に、爆豪がイラァッと機嫌を悪くした。
「っしゃ!向に二回戦も頑張ってって言われたし、俺も頑張らないとな!」
「………何言っとんだクソが、あいつは二回戦どころかてめェの一回戦も眼中にねぇよ」
「は?ちゃんと感想も聞いたって」
「見てねぇもんは見てねぇんだよ、あいつはそん時俺と園庭にいたからな」