第25章 仲良しだから
静まり返った会場に響く緑谷の声。
いつも、緑谷は向に優しくて。
一緒に過ごしていなくとも。
彼はたしかに、向の「仲良し」で。
心地よいはずの彼の言葉が、声が。
今はなんだかひどく耳障り。
(…うるさい)
「うるせえ…!」
ぐしゃ、と両耳にかかる髪を向が握りしめ。
彼女の心の声を轟が緑谷にぶつける。
「向、どうした?」
会場に釘付けになっているクラスメート達の中で、ただ一人。
隣に座る切島が、心配そうに向に声をかけてきた。
「だから……僕が勝つ!!!」
君を、超えて。
思い詰めた表情で動きが鈍った轟を、緑谷がまた殴り飛ばした。
(ーーー私は)
(ーーー俺は)
走馬灯のように駆け巡る、記憶の中で。
ぐちゃぐちゃになった感情を、必死に押し殺して。
轟は振り絞るように、声を発した。
「親父を「君の!」
「力じゃないか!!!」
緑谷のその一声を受けて。
轟は目を丸くした。
まるで。
今までずっと目の前で戦っていたはずの相手の姿を、ようやく見つけたかのように。
その直後。
轟が会場全体に熱気を放つほどの豪炎を纏い始めた。
「俺だって、ヒーローに…!!」
そう言って、苦しそうに。
ひどく、悲しそうに。
轟が笑うのを見て、緑谷も、痛みを堪えながらの笑みを浮かべた。
事の顛末を話すとしよう。
自身の左側に宿る個性を開放した轟と同様に、全力で彼に個性を使い、飛び込んだ緑谷両者の衝突は、観客たちを巻き込むほどの爆風を発生させた。
立ち上がる土煙の中、主審のミッドナイトがジャッジを下し、告げた。
「緑谷くん……場外」
湧き上がる歓声の中。
会場の壁まで弾き飛ばされた緑谷が、崩れ落ちるように倒れる。
「轟くんーーー三回戦進出!!!」
それと同時に、その戦いの敗者が決定した。
ーーー雄英体育祭本戦、2回戦1組目
ーーー緑谷出久、ベスト8敗退