第25章 仲良しだから
1-Aの生徒達の目が全て会場に向けられた時。
その個性の暴発で、両手の全ての指を粉砕骨折していた緑谷が轟の迫り来る氷壁を破った。
「皆…本気でやってる」
痛みに脂汗をかきながら、必死の形相をした緑谷の声が、微かに観客席まで届く。
「勝って…目標に近付く為に…っ一番になる為に!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に、傷一つつけられちゃいないぞ!」
「全力で!!かかって来い!!!」
会場に響く、緑谷の怒鳴り声。
聞いたことのない彼の、腹の底からの激情を乗せた言葉に、クラスメート達が静まり返った。
あの轟に、緑谷が勝てるわけがない。
そう思っていた観客達の空気が、次第に変化していく。
言葉には出さずとも、心の内でどこかそう感じていた1-Aの生徒達も、食い入るように観戦を始めた。
<<モロだぁーー生々しいの入ったぁ!!>>
近距離攻撃に持ち込んだ轟に、緑谷がボディに一発、重たい拳をぶつける。
ものすごい勢いで吹っ飛ばされる轟に、観客がざわついた。
「轟に…一発入れやがった!!」
「どう見ても緑谷の方がボロボロなのに…」
「ここで攻勢に出るなんて…!」
(……出久、アドレナリンで誤魔化してるなぁ)
会場を見下ろし、観戦していた向は、自分が鼻を骨折した時の痛みを思い出し、少しだけゾッとした。
(何で、そこまで)
「何でそこまで…!!」
向が心の内で呟いた言葉を、轟が緑谷に問いかける。
「期待に応えたいんだ…!」
緑谷は駆け出し、轟に答えた。
「笑って、応えられるような…カッコイイヒーローに、なりたいんだ!!だから、全力で!やってんだ、皆!」
(………皆)
また、心の内で言葉が漏れる。
あぁ、そうか。
きっと、緑谷が言う「皆」の中には、自分は含まれていない。
みんなの個性を研究し続けている勤勉な彼は、向の戦いを見て、どれほど憤ったことだろう。
「君の境遇も、君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない…でも…」
全力も出さないで、一番になって。
完全否定なんてフザけるなって今は思ってる。