第24章 おまえと一緒
どうやら、爆豪はわざわざ水を買ってきてくれたらしい。
珍しいこともあるんだね、なんて言ってまた目を閉じた向の頭を、爆豪が躊躇いなく叩くあたり、具合が悪くとも、甘やかしてくれる気は毛頭無いようだ。
『……!』
痛いぐらいに掴まれていた腕が離れて、多少の振動が身体に伝わってきた後。
右肩越しに、誰かの体温が伝わってきた。
きっと爆豪だろうとわかってはいても、なんだか向には彼がそんな対応をしてくれるとは、到底想像がつかず。
向は、少しだけ目を開けて、並んで木の根元に腰掛けた彼の左肩に、自分の右肩が触れているのを見て、また目を閉じた。
『…肩、貸してくれるの?』
「黙ってろ」
そう突き放す爆豪は、向の額に、冷たい水の入ったペットボトルを押し当てた。
その冷んやりとした感覚を心地よく感じながら、向はぼんやりと、こんなことを考える。
(……いつまで、ペットボトル持っててくれるんだろう)
自分で持てばいいものを、なんだか気になってしまったら、確かめたくて仕方がなくなる。
そのまま少しの間、「自分で持てや!!」と爆豪がブチギレて、ペットボトルを爆破する場面を、今か今かと期待して待ち続けた。
けれど、彼は一向にキレる気配を見せない。
「オイ」
あぁ、やっとか。
なんて怒られる心構えをした時。
「見たんか」
(………。)
その一言で。
向の頭の中に、爆豪に返すべき言葉の羅列が現れる。
1.見てたよ
2.見てないよ、焦凍と話してて
3.あぁ、ブーイングすごかったね
4.見てた。いつも通りかっこよかったよ
(……3)
怖いもの見たさで、わざと一度爆豪を怒らせる言葉を選び、頭の中で訂正した。
(…4は、キモいから無し。となると…1か2)
轟の名前を思い浮かべた時。
ふと、額から伝わってくる冷んやりとした感覚に、初めて轟と話した日のことを思い出した。
ーーーがんばれよ
そう言って、笑ったはずの、あの物静かで穏やかな彼は、一体どこに行ってしまったんだろう。
余計なことを考えたことがバレたのか、爆豪が、「早よ答えろ!」と少し怒気を強めて問い詰めてくる。