第24章 おまえと一緒
「………………………………………」
麗日とのバトルの後。
爆豪は少しだけ不完全燃焼に終わった自分のフラストレーションを解消しようと、人気のない園庭ゾーンへと足を向けた。
深緑と紺碧のコントラストを眺めながら歩いたことにより、バトルで殺気立っていた気も幾分紛れ、さぁ戻ろうと方向を変えた時。
木々のざわめきを子守唄代わりにしているのか、木陰で眠り込む向を見かけた。
「……………………………………」
そのまま、視線が外せず。
ガン見し続けて何分が経過しただろう。
遠くから人の声が聞こえてきたことで、爆豪はようやく我に返り、自分が無言で1人の女子を見つめ続けていたことの気恥ずかしさに悶え、自己嫌悪した。
「おい、クソ舐めプ女!とっとと戻れや!」
ゆっくりと目を開いた彼女は、木にもたれかかったまま、視線だけで周囲を見渡した。
『……なんだ、勝己か』
「なんだとはなんだてめェ殺すぞ!!」
彼女はまた再び目を閉じて、爆豪に話しかけられたことなど意にも介さず、息を吐いた。
(……?)
怒鳴りかえした爆豪に、彼女は珍しく、返答してくることはなかった。
違和感を感じて近寄ると、彼女は小さく呻きながら、眉間にしわを寄せて、項垂れていることに気づいた。
『…お疲れ勝己、水持ってない?』
そう問いかけてくる彼女の言葉からも、恐らくは体調不良を起こしているのだろうと推察できた。
「持ってねぇよ」
『そっか…』
それだけ言って、黙りこくってしまう向。
爆豪は何かを言おうとした後、周囲を警戒するように辺りを見渡し、足早に去っていった。
(…なんだったんだろう)
目眩を起こし、座り込んでいた向は、「舐めプ女」と罵るだけ罵って立ち去っていった彼のことを少し恋しく思った。
また、木の葉が擦れる音だけが聞こえてくるようになって、数分後。
「オイ」
『……?』
目を開けて、爆豪と目が合った。
途端に歪む視界にバランスが取れなくなり、上体が地面へと傾いていく向の肩を、爆豪が力強く掴む。
「ブッ倒れんなら決勝で俺に負けてからにしろ」
向が勝手に、クラスで一番仲良しだと思っている彼の声は。
なんだかいつもより少しだけ、彼の本音を、うまく伝えてくれている気がした。