第24章 おまえと一緒
爆豪は、向が知る誰よりも、勝利に固執していた。
更に高みを目指そうと力の限りを尽くす彼の戦いは、あいも変わらず猛々しいのに。
それを理解しない観客達は、愛らしい外見の麗日相手に、一切手を抜かない爆豪を罵った。
<<今遊んでるっつったのプロか?何年目だ?シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ>>
ここまで上がってきた相手の力を、認めているから警戒を怠らない。
本気で勝とうとしているからこそ、手加減も油断も出来ないんだろう。
(……。)
相澤のそのマイク越しの言葉を受けて、会場のブーイングは瞬く間におさまった。
そして、爆豪の読み通り。
隙を見せずには回避不可能なまでの無数の瓦礫を、頭上高くに蓄えていた麗日は、爆豪への感謝の言葉と共に、駆け出し、まるで流星群のように瓦礫を落下させた。
轟く爆音と、相手が悪かったとしか言いようのないバトルの結末。
向はそれをぼんやりと轟の隣で眺めた後、解説席を見上げた。
『…私は、怒られてばかりだなぁ』
飯田とのバトルの後。
相澤が発した数少ない言葉たちは、どれも全て飯田に向けられたものだった。
今のバトルに関しても、同様だ。
あの人に、そこまで言わせる爆豪が羨ましい。
「向」
『…ん?』
向が視線を轟へと戻すと、彼は自分の右手を差し出してきて、ひんやりとした小銭を手渡してきた。
『つめたっ』
「悪ィ」
そう言った彼の表情は、硬く。
向は、まだ若干の冷気をまとって自身の手のひらを赤く滲ませる小銭を、ゆっくりと握りしめた。
『…いってらっしゃい』
送り出す彼女の言葉が聞こえているのか、いないのか。
轟は返事をすることなく、冷たい空気を纏ったまま、選手控え室へと向かっていく。
だいぶフィールドが削れてしまったため、若干の待ち時間が出来るというアナウンスを聞いて、向は、観客席を後にした。