第24章 おまえと一緒
「おいコラ、死ねクソカス舐めプ野郎とっとと失せろや」
『…暴言のオールスター…』
観客席へと戻る途中、向は、すれ違った爆豪にけちょんけちょんに貶された。
『が、がんばって』
「あァ!?話しかけんな!!」
『………』
本来なら、もっと早くに決着がついていたはずの向・飯田のバトル。
対戦した飯田だけではなく、向の個性に詳しい方々にはもれなく、彼女がまだ余力を残したまま二回戦進出を決めた事実が、伝わってしまっていた。
(予想してはいたけど、ひどい言われようだ…)
あんな戦いの結末でも、向は自分が思う最善の選択を選んだつもりだった。
なんだか釈然としないまま、向は糖分を補給しようと自動販売機の前に立ち、そのラインナップを吟味した。
(…………これにしてみよう)
ボタンを押し、プルタブを開け、歩きながら缶の中身を口にしたところで、観戦席には座らず、壁にもたれかかったまま会場を見下ろす轟と目が合った。
「…。」
手招きをされ、特に観戦席で自分を待つ人もいないので、向は素直に轟の隣に並び、壁に背を任せた。
「おまえ、また先生に怒られるな」
『そんなわかりやすかった…?』
「個性をよく知ってる連中には、確実にバレてる」
『はぁ〜……演技には自信があるんだけど』
「冗談だろ」
『いやいや…そうでもないよ?』
「飯田の為か。それとも、おまえの為か」
個性、人に見られたくなかったのか。
そう問いかけて向を見つめてくる轟に、彼女が答えを返すことはない代わりに、質問を返した。
『焦凍は、炎の個性見られるのいやなの?』
「…さぁ、どうだったろうな。忘れた」
『へぇ?思い出そうとトライすることすらしないんだなぁ』
「……。」
『賢いんだから、少しは考えてから答えてよ』
「…悪ぃ、だいぶ昔にそういうのはやめた」
『考えるのを?』
「あぁ」
アイツの事なんか考えたって、胸糞悪ぃだけだろ。
そう言って、表情を曇らせる轟を横目で見ながら、向は甘ったるいその飲料に、また口をつけた。
視界の端に映ったその缶を眺めて、轟は一瞬、何かを考えるように、視線を右下に逸らした。