第24章 おまえと一緒
『今財布持ってるの?』
「……」
その轟の仕草と、視線の動きを見ていたのか、向は『うわぁ痛そう』なんて会場の切島・鉄哲のバトルを観戦し、呑気なコメントをした。
「……持ってねぇ」
『お金貸すから、買っておいでよ』
向が財布から小銭を取り出して、轟の手を取り、その手のひらに小銭を置いた。
(ーーー。)
自分の指先から離れていく、彼女の白くて綺麗な指先を眺めた後。
轟は首を横に振った。
「時間がねぇ」
『今の試合も持久力バトルっぽいし、次、勝己とお茶子だし、多分長引くんじゃないかな?』
「…買うまでに時間がかかる」
『ははは、それは仕方ないよ。ゆっくり選んでおいで。そろそろ終わりそうだなってなっても、戻ってこなかったら呼びに行ってあげるから』
「………」
いってらっしゃい。
そう言って、にこやかに笑う向に手を振られ、一度自覚してしまった喉の渇きを、誤魔化す術はなく。
「…じゃあ、いってくる」
『はいよ』
轟は向に背を向け、ゆったりと歩いて行った。
「あ、深晴戻ってきてたん?こっち座れよ、そんなとこいないで!」
『あれ、電気戻って来てたの?』
「どっから?」
『我々の愉快な国から』
「アホ面直ったねって言ってる!?同じ国籍を取得してるおまえには言われたくないですぅ!!」
『ええ、同じとは言い難いよ。私理系は出来るし』
「いいや、おまえと俺は一緒ですぅ!!同じ穴のムカデですぅ!!」
『何それ、つがいのムカデってこと?どんな口説き文句気色悪』
残念な会話を繰り広げる上鳴と向の会話を聞いて、周りにいた1-Aの生徒たちが笑い転げる。
「『えっ、なに』」と同じ反応を返す2人に、蛙吹が「ムジナよ、深晴ちゃん、上鳴ちゃん」と正解を教えてくれた。
その直後。
会場に響いていた金属と、硬いものがぶつかる音が止み、マイクのシャウトが響き渡る。
<<個性ダダ被り組!!鉄哲vs切島真っ向勝負の殴り合い!!制したのはーー……>>
「両者ダウン!!引き分け!!引き分けの場合は回復後簡単な勝負…腕相撲等で勝敗を決めてもらいます!」
主審の声を聞き、向は『おや、案外』と呟く。
その彼女の手にある缶を見て、上鳴が「センスなっ!」という声をあげた。