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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第23章 今こそ別れめ、いざさらば




絶対に勝て!
自分の身体に危害を加え続けたクラスメートに対し、飯田はそう言った。
向はその彼の視線をじっと受け止めて、少しだけ笑ってみせた。





『…ありがと』





その彼女の表情を見て。
飯田は、確かに自分の身体の中心に穴が空いたような錯覚に陥った。
これで、最後。
年に1回、計3回の最大のチャンス。
兄は女性に手をあげず、為すすべもなく敗退した自分を、褒めてくれるだろうか。












<<……飯田、よくやった>>












ふと聞こえてきた会場のアナウンス。
聞き慣れたその声に、飯田は耳を疑い。


<<お疲れ>>
「……っ…!」


そんな、担任の不器用な労いの言葉に呼応するように。
通り過ぎた近くの観客席から、拍手喝采が聞こえてきた。


「偉かったぞ!!」
「お疲れさまー!卒業後はぜひうちの事務所に!!」
「インゲニウムの弟さんか!さすが、立派だったよ!!」


初戦敗退の自分に対し、向けられる賞賛と温かい声援の声に、飯田は熱くなる目頭を片手で覆った。


「……っ……!」











あぁ、田中くん。
君はいまどこで、何をしているんだろう。
僕の戦う姿を見てくれただろうか。
あれだけ世間が放っておかないプロヒーローになると、偉そうに君に語っていたのに。
僕はいま、1人の女性の視界すら独占できないダメな男に成り果てている。
いつか、君ともう一度話すことが叶うなら。
世間知らずだった自分を詫びて、それから、君に一言言わせてもらいたい。


卒業式の日。
君が、頑張っていないせいだと言ったわけじゃないんだ。
ただ僕は、そんな風に君が感じるだろうなんて簡単なことすら、この高校に入るまで知らなかっただけ。
君がもし自分や現状に限界を感じ、ヒーローになる夢を諦めてしまったんだとしても。
誰のせいでもない理由で、高校を諦めざるを得ないんだとしても。
努力は、報われないこともある。
そんな世の中に、嫌気がさしていたとしても。


更に向こうへ、僕たちは地を這ってでも生きていかなきゃいけない。
僕は絶対に、諦めたりしない。
努力は大抵報われない。
でもごく稀に、報われることもある。
だから君も、どれほどの回り道をしようとも、夢を諦めないでほしい。
君は誰よりも、ヒーローになる素質を持っていたから。


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