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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第23章 今こそ別れめ、いざさらば




みんな、みんな。
田中くんよりも、ヒーローを目指す者としての志も、勤勉さも、僕の方が劣っているのに、それに気づいてはくれなかった。
僕自身。
苦しい生活の中で、それでも努力を続けてヒーローを目指していた友人の姿に、気づかなかった。
努力すれば報われる。
そんな僕の幼稚なモットーは、彼の耳にどれほどの雑音となって聞こえていたことだろう。













今となっては、昔話。
彼は卒業後、携帯を解約してしまったようで、連絡の取りようもない。
当たり前だ。
大切な友人を失って当たり前。
自分の「普通」を、僕は彼に押し付けたんだから。
そんなの友人じゃない。
でも、今でも思い出すたびに、悲しさと、恥ずかしさ、虚しさの感情に混じって、彼への憤りが湧いてくる。







「……っ向くん!!!」
『……なに、天哉?』







グラウンドから彼女の背を見送る直前。
僕は声を張り、告げた。








「君は、もっと貪欲に生きるべきだ!!有名事務所の目に止まりたいんだろう!?ならあんな中途半端な戦いではなく、全力でぶつかって然るべき!!そうだろう!!」








それと似た言葉を、僕は相澤先生にも言ってやりたい。
気に入られたくて、見ていたから知っている。
自他共に無関心に見えた僕たちの担任が、意外と寝たフリをして生徒同士の会話に耳を傾けていることを。
無愛想なあの先生が、生徒の成長を垣間見る度、微かに口元を緩めることを。
そして、何事にも笑って対処してみせる向くんが、USJで、必死になって先生を引き止めた時。


相澤先生は、一瞬だけ。


迷いを見せた。


その理由は、僕も知らない。
けれど、一瞬だけ重心が変わったその相澤先生の足下は、少し離れていた僕には見えたが、すぐそばにいた彼女には、見えなかったことだろう。
先生がどれほど、向くんの背を見つめてきたか。
先生がなぜ、雑用を理由に彼女に話しかけるのか。








15歳差?





たしかに「普通」じゃない





けれど












それがどうした















そんな常識に当てはめて自分を制御できないほど、誰よりも美しく、誰よりも聡明である彼女に見てもらいたいと願う気持ちを、僕は、身をもって知っている。



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