第23章 今こそ別れめ、いざさらば
きっと、向くんは知らない。
僕が最近まで、君にどれほど醜い嫉妬心を抱いていたのか。
高校に入っても、僕の情けない性根は何一つ、変わってはいない。
「飯田、あのさ」
「あぁ、すまない!今日は予定があるんだ!」
定期テストで、田中くんに負けるたび。
僕は悔しくて、けれどその結果は自分自身のせいでしかないんだと自分に折り合いをつけるまで、田中くんの側から離れた。
「…わかった、また明日な」
「…ああ、また明日」
そんな俺に、気づいていたんだろう。
テストで負けるたび機嫌を損ねる友達なんて、きっと煩わしかったに違いない。
(教科書を忘れてしまった…!)
それは、ある日のこと。
「どした?飯田」
「だ、大丈夫だ!委員長の僕が、まさか忘れ物などするはずないだろう!」
「忘れ物したのか。何忘れたの」
「……教科書だ」
「ははは、つらぁ」
「心配ご無用!先生に予備の教科書がないか聞いてくる!」
「はいはい、廊下走んなよ飯田ー」
恩師に緊急事態を伝え、予備の教科書がないものだろうかと聞いてみたが、残念ながら叶わず、僕は打ち震えながら授業に臨むこととなった。
(……!)
藁にもすがる思いでカバンを漁っていると、使い古された教科書が出てきた。
確実に僕の教科書とは似ても似つかないそれには、びっしりとその日の授業の予習が書き込まれてあった。
「さぁ、飯田この文の和訳は?だいぶ難しい解釈だぞこれは!」
「………あ…えっと……」
僕は、動揺しながらも、その教科書に書き込まれてあった和訳を呼んだ。
すると、先生は驚いた顔をして、僕に拍手をしてくださった。
「すごい!!さすが飯田、正解!!」
「………。」
「次、じゃあ後ろの……えーっと…」
「…田中です、教科書忘れました」
「…田中か!あー、そうか。じゃあ次は忘れないように」
「はい」
「えっ?」
僕は慌てて振り返り、田中くんを凝視した。
彼は僕と目を合わせて、自分の口元に人差し指を当てた。
後から。
彼が受けるはずだった注目を、僕が奪ってしまったことを謝罪した。
けれど彼は一切の躊躇いなく、笑って言葉を返した。
「いいよそんな。大したことじゃない」
「大したことだ!それと、自分のものには名前を書け!誰のものかわからないだろう!」