第23章 今こそ別れめ、いざさらば
「なぜ、その人の視線じゃなきゃダメなんだ?」
ただ、会話を引き延ばしたくて問いかけた、意味のない質問。
彼女は予想通り無視することはなく、僕にもう一度視線を向けた。
『大切な人だからだよ』
なんて、当たり前の言葉を返されて。
僕は彼女を見送って、搬送用ロボットに身体を預けたまま。
ざわつく観客席の中に設置されている、解説席を見上げた。
USJの乱闘騒ぎの後。
相澤先生を観察するようになって、すぐに気づいた。
「じゃあ、また明日」
『はい、また明日!』
「さっさとしろ深晴!」
『はいよー』
1日の終わりに。
彼女との会話を終えて、教室から彼女を見送った先生は廊下へと出て、ガラス張りになった校舎の中から、ぼんやりと外を眺める。
その「時間の無駄」としか思えない不合理な行動に違和感を感じて、僕も少し離れた位置から、校舎の外を見下ろした。
そこは、校門まで続くアーケードが見える位置で、少しだけ目を凝らして見ると、校舎から続々と出て行く生徒たちの後ろ姿が判別できた。
(……あぁ、そうか)
相澤先生は、眩しい西陽を、目を細めて眺めているわけではなく。
彼女を見送るためだけに、無為に思える時間を過ごしているんだ。
また明日。
そう言った彼女が、爆豪くんと連れ立って歩いて行くのを見て、僕はまた少しだけ、落胆したような気持ちになった。
気づけば、いつからか。
僕は当たり前のように彼女を従えている爆豪くんに、憤りを感じるようになった。
「なぜ彼女はあれほどまでに乱雑な爆豪くんと時間を過ごしているんだ!?空気感が全く違う、似合っていない!!」
「わぁ飯田くん、わかりやすいまでに嫉妬してるねー」
「嫉妬?かっちゃんに?」
「だってそうだろう!彼女にはもっと理性的で、頼りがいのある男が似合うはず!」
「あ、相澤先生みたいな?」
ある日の昼食時。
緑谷くんが、何の気なしに言った。
「……ハッ!しまった、最近は敵情視察ばかりで大本命を観察し損ねていた……!」
その発言を聞いて、危うく観察の主旨を自分が見失いかけていることに気づいた。