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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第3章 何事もほどほどに




だってこれは試されてるんだから、と向は脂汗の滲む顔で飯田を見つめ、おもむろにジャージの上着を脱いだ。
そして、ジャージの汚れた部分を内側にして自分の顔面を隠し、袖部分を首の後ろで結んだ。


『……キミたち2人にお願い、テストが終わるまで私の怪我のことは…その……秘密にして』
「何を言ってるんだ、この後は7種目もあるんだぞ!?」
『除籍なんてぜったいいやだ……!』


(…それでも、その出血量ではすぐに貧血を起こして倒れてしまうじゃないか…!)


向は鬼のような眼力で飯田を睨みつけてくる。
その覚悟の滲んだ視線を受けてもなお、飯田は彼女の言い分を認める気にはなれない。
葉隠と飯田の目から隠すように、ずっと向の両手で覆い隠されていた彼女の鼻の根本が、ジャージを結ぶ一瞬微かに見えて、歪に腫れ上がっていることに気づいてしまったからだ。


絶対に、鼻の骨が折れている。


そう確信した。
飯田は、子どもの頃、自分の個性で超加速をしたものの、コントロール出来ずに壁に衝突し、ひどい出血と痛みを伴った鼻の骨折を経験している。
そして、彼女の筋の通った小さな鼻が、職人に作り込まれた人形のように整っていることも、知っている。


「君は、美しい女性だ。そんな怪我をさせたままで、放っておくわけにはいかない」


せっかく、あんなに綺麗な鼻をしているのに。


全く、躊躇うことのない飯田のはっきりとした物言いに、向が少し目を見開いた。
そして、側で状況を伺っていた葉隠が「うわ…わたしも男の子からそんなこと言われてみたい」と、きっと大多数の男子にはその顔を確認する段階で断念されてしまうであろう願望を口にした後、何かを発見してジタバタと自分の存在をアピールし始めた。


「向さん、先生こっちくる!」
『…げ。ちょっと、2人とも何も知らないふりして!私は鼻血が出たから顔洗ってくるって伝えといて!』
「なっ、無茶だと言っているだろう向くん!」
「きゃー飯田くんまさかの肉食だね!?わたし、応援するよ!」
「肉食…?葉隠くんはなにを言っているんだ!?」
「おいお前ら、待機組はあっちで待つように言ったはずだぞ。何遊んでる、そんなに遊びたいなら今すぐに除籍してやろうか?」
「「あ、遊んでません!」」
「………」




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